ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国映画「星の3兄弟」(1977)を観て ②]子どもの人権を訴えた方定煥の言葉を勤労児童が叫ぶ・・・

2013-01-27 21:20:32 | 韓国映画(&その他の映画)
1つ前の記事の続きです。
 その最後に私ヌルボ、次のように書きました。

 この映画のラスト近くのクライマックスは、こどもの日当日の劇本番のシーンなんですが、そこに至って私ヌルボ、ふとひとつの考えが頭をよぎりました。
  ジョンナム少年=方定煥が死期の迫った苦しい息ながら、しっかりと自身の理念を叫ぶ場面です。

 作中で子どもたちの演じる劇を見ていた親や教師たちが感動しただけでなく、この映画を観ていた観客の多くもこの場面に心動かされたかもしれません。
 しかし、私ヌルボの頭に少し引っかかったのはその台詞。韓国語を全部聞き取れたわけでももちろんなく、日本語字幕もメモをとれませんでした。しかし「~마시고~주시오(~しないで~してください)」という形で表現された彼の理念の中に「大人は子どもを抑圧するな」というようなことが含まれていたことはわかりました。
 問題は、そのような内容の方定煥の言葉を、約半世紀も後の「勤労児童」のジョンナムが叫んでいるということ。

 貧しい母子家庭の少年ジョンナムは、前の記事にも書きましたが家計を助けるため食料品店で配達の仕事をしています。それはお手伝い&お駄賃のレベルを越えた児童労働で、映画では店の主人は始終ジョンナムを怒鳴りつけたりしてこき使っているのです。

 方定煥の言葉を、韓国サイトの中で探してみました。(日本語サイト内では冒頭部分しか載っていなかったので。) たぶん次の9項目からなる「어른들에게 드리는 글(おとなの皆さんにおくる言葉)」です。これは1923年5月1日彼の提唱による第1回の子どもの日で、彼がよびかけた言葉です。<KBS WORLD>の記事によるとソウル市内に12万枚配られたビラの文言だそうです。

・어린이를 내려다보지 마시고 치어다 보아 주시오. 
・어린이를 가까이 하시어 자주 이야기하여 주시오.
・어린이에게 경어(敬語)를 쓰시되 늘 보드랍게 하여 주시오.
・이발이나 목욕, 의복 같은 것을 때맞춰 하도록 하여 주시오.
・잠자는 것과 운동하는 것을 충분히 하여 주시오.
・산보와 원족 같은 것을 가끔 시켜 주시오.
・어린이를 책망하실 때에는 쉽게 성만 내지 마시고 자세히 타일러 주시오.
・어린이들이 서로 모여 즐겁게 놀 만한 놀이터와 기관 같은 것을 지어 주시오.
 ・대우주의 뇌신경의 말초는 늙은이에게 있지 아니하고 젊은이에게도 있지 아니하고 오직 어린이에게만 있는 것을 늘 생각하여 주시오.

[ヌルボ訳] 
・子どもを見下さず、見つめてください。
・子どもと親しくして、よく話をしてください。
・子供に敬語を使い、いつも優しくしてください。
・理髪や入浴、衣服のようなものを、時機に合わせてやってください。
・睡眠と運動することを十分にしてください。
・散歩と遠足のようなことをたまにさせてください。
・子どもを叱る時には、たんに怒らないで、詳しく教え諭してください。
・子どもたちがお互いに集まって楽しく遊ぶのに十分な遊び場や機関などを作ってください。
 ・大宇宙の脳神経の末梢は老人になく、若者にもなく、ただ子どもにだけにあることを、いつも考えてください。

 また、これと同時に、方定煥は「少年運動の基礎条件(소년운동의 기초 조건)として、次の3項目をあげています。

・어린이를 재래의 윤리적 압박으로부터 해방하여 그들에게 대한 완전한 인격적 예우를 허하게 하라.
・어린이를 재래의 경제적 압박으로부터 해방하여 만 14세 이하의 그들에 대한 무상 또는 유상의 노동을 폐하게 하라.
 ・어린이 그들이 고요히 배우고 즐거이 놀기에 족한 각양의 가정 또는 사회적시설을 행하게 하라.

・子どもを在来の倫理的圧迫から解放し、彼らに完全に対する完全な人格的な扱いを認めよ。
 •子どもを在来の経済的圧迫から解放し、満14歳以下の子どもに対する無償または有償の労働を廃せよ
 •子どもたちが静かに学び、喜んで遊ぶに足る各種の家庭または社会的施設を設けよ。

 ここでは、具体的に満14歳以下の子どもの労働の否定が掲げられています。

 話を戻します。
 このような方定煥の主張を演劇の舞台で約半世紀も後の時代の勤労少年が叫ぶという構図は、はたしてこの「星の3兄弟」のキム・ギ監督が意図的に設定したものか? そしてそこに今も存在する児童労働についての問題を提起したのか?
 それとも、国民学校児童の演じる劇の定番として、有名な偉人の方定煥の伝記を上演したにすぎないのか?
 この2つの中間にももう1つありそうですが。 

 しかし、どうもこの作品の全体を見ると、そんなにジョンナム母子の境遇を掘り下げて描いているわけでもないし、他のキム・ギ監督の作品について少しネット情報を見てみても社会派らしい作品は作ってないみたいだし・・・、ということでどうも私ヌルボが深読みしすぎたようです。
 もっとも、1977年当時の朴正熙軍事政権下で、真っ向からの政治批判映画は作ろうと思っても不可能な時代だったのですけどね。

※方定煥について参考にした韓国サイトはいくつかありますが、たとえば→コチラや→コチラ
 また、→コチラの記事によると、方定煥以前は「어린이」のことを「애새끼」とか「어린 놈」などとよんでいたとのことです。
 「初等児童をチョディング(초딩)とよぶな」というマジメなパロディもありました。(→コチラ。)

★下の写真は、2009年ソウルに行った時に撮った方定煥関係の石碑。仁寺洞の通りから少し入った所、天道教中央大教会の脇にあります。→コチラのブログ記事(日本語)でくわしく紹介されています。(地図付き。)
     
     【オリニ人権運動家・方定煥の石碑(左)と、世界オリニ運動発祥の地の石碑。】

  어른이 어린이를         大人がオリニを
  내리 누르지 말자.        抑えつけるな。
  삼십년 사십년 뒤진 옛 사람이     30年40年後れた昔の人が
  삼십 사십년 앞 사람을       30、40年先の人を
  잡아 끌지 말자.        引きつかむな。
  낡은 사람은 새 사람을 위하고     古い人は新しい人のため
  떠 받쳐서만          支えて立ってこそ
  그들의 뒤를 따라서만       彼らの後ろにしたがってこそ
  밝은 데로 나아갈 수 있고      明るい所に出て行くことができ
  새로워질 수가 있고         新しくなることができ、
  무덤을 피할 수 있는 것이다.      墓を避けることができるのだ。
    1930년 7월        1930年7月
   어린이 인권운동가 방정환    オリニ 人権運動家 方定煥

★この記事を書くにあたって少し調べて知ったのですが、方定煥の妻は東学(後の天道教)3代教主・孫秉煕(ソン・ビョンヒ)の3女。子どもの尊重は天道教の思想に由来するもので、天道教が日本統治下の朝鮮で児童文化の発展に寄与したことは、→韓国児童文学の研究者(&韓国絵本の翻訳家)・大竹聖美さんの記事、金成妍「越境する文学」(→コチラで一部読める)、ウィキペディアのセクトン会の説明文等に記されています。

「星の3兄弟」という映画タイトルは、方定煥が作詞した童謡「兄弟星(형제별.ヒョンジェビョル.兄弟星)」の歌詞中の言葉から。劇中でもお遊戯とともに歌われていいました。このの歌は、→コチラの韓国ブログで3姉妹(?)の写真のバックに流されています。
 [歌詞]
  ♬ 날 저무는 하늘에   
  별이 삼형제   
  반짝 반짝 정답게
  지내이더니    
  왠일인지 별 하나
  보이지 않고
  남은 별만 둘이서
   눈물흘리네 ♬ 

  日暮れ時の空に
  星が3兄弟
  キラキラなかよく
  過ごしていたが
  なぜか星ひとつ
  見えなくて 
  残った星が2つだけ
   涙を流しているね

     
         【天道教中央大教会。】

 上の門の文字にあるように、天道教では神のことを「하느님(ハヌニム)」でもなく、キリスト教のように「하나님(ハナニム)」でもなく、「한울님(ハヌルリム)」というのですね。
コメント
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