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「直義の命日が高師直のちょうど一周忌にあたることから、その日を狙って誅殺したとする見解もある」(by 清水克行氏)

2021-01-13 | 建武政権における足利尊氏の立場
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2021年 1月13日(水)11時26分54秒

尊氏が直義を毒殺したか否かは、谷口雄太氏が主張される「『太平記』が紡ぎ出す物語・視座(物の見方・『太平記』的な見方)」という意味での「太平記史観」の問題ではありません。
しかし、「史料的にも毒殺を記すのは『太平記』くらいしか存在しない」(亀田俊和氏)にもかかわらず、大御所クラスを含めた歴史研究者の大半が直義毒殺肯定説というのはちょっとびっくりで、『太平記』が現代の歴史研究者にも大変な影響力を持っていることを改めて感じさせますね。

『古典の未来学』を読んでみた。(その2)~(その5)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/76d31174f58bfb3065b1071440cafd73
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/c8057e72256cb89a1fd65390eb8e20d6
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/447d127d0730cf882b249833b4dc329e
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/969a55492ae6704d9c2a1b07dc5989a7

また、『太平記』の流布本が「かくつらくあたり給へる直義朝臣の行末、いかならんと思はぬ人も無りけるが、果して毒殺せられ給ふ事こそ不思議なれ」(『日本古典文学大系 太平記(二)』、p282)として、二つの毒殺エピソードを明確に関連づけているにもかかわらず、毒殺否定説の亀田俊和氏を含め、直義のエピソードを分析するに際して恒良・成良のエピソードに言及される人がいないことも、私にはちょっと不思議に思われます。
清水克行氏によれば「直義の命日が高師直のちょうど一周忌にあたることから、その日を狙って誅殺したとする見解もある」そうですが、鴆毒の化学的性質がいかなるものであったかは不明だとしても、恒良・成良のエピソードを読めば、少なくとも当時の一般人の認識としては、鴆毒は一週間続けて飲んでやっと効き目が出る程度ののんびりした毒薬ですね。
しかも恒良と成良の死期が全く違うように個人によって効き目の差が大きい毒と認識されていたことが明らかですから、ピンポイントで特定の日に殺せるはずがありません。
また、最近入手した櫻井彦・樋口州男・錦昭江編『足利尊氏のすべて』(新人物往来社、2008)に収められている小国浩寿氏の「足利直義」という論考は、その最後に、

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別離─兄と弟

 観応の擾乱は、自らを除こうとした直義近臣の上杉重能らを師直らが先制して討ち、養父の仇であるその師直らを上杉能憲が討つ、といった足利家臣団の報復合戦の果てに、直義は、尊氏と正面から対峙せざるを得なくなる。このように、それそれを担ぐ勢力における利害対立の渦の中、かたや天下の政務を司る冷徹な政治家として、かたや天下人であるとともに、その将軍職を息子義詮にスムーズに委譲しなければならない一人の父親として、兄弟は、相向かって屹立する。それは、「二人」が苦境の中からようやく立ち上げた北朝を一時的にでも離れ、相次いで南朝に降りるといったある種の禁じ手の応酬をもともなってのものであった。そして弟は、かつてその弟の安穏を祈りつつ何度となく隠遁を試みた兄の手によって先立つのであり、文和元年(一三五二)、直義は、鎌倉で師直の命日に毒を服すことになる。
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とあって(p230)、なかなか感動的な名文だなとは思いますが、鴆毒は即効性の毒ではないですから、直義が「鎌倉で師直の命日に毒を服」したところで、その後一週間くらいダラダラ生きて行くことになって、ちょっと締まらない話になりそうですね。
もしかして「直義の命日が高師直のちょうど一周忌にあたることから、その日を狙って誅殺したとする見解」の人や小国浩寿氏は恒良・成良の毒殺エピソードをご存じない、つまり『太平記』を通して読んだことがないのでしょうか。
謎は深まるばかりです。

『足利尊氏のすべて』
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009684491-00
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