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0097 歴史学研究会大会・日本中世史部会傍観(その5)

2024-06-04 | 鈴木小太郎チャンネル「学問空間」
第97回配信です。


一、前回配信の補足

小池氏のレジュメ、第1章第1節より抜粋。
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鎌倉顕密寺院→そもそも強訴を起こしていない。畿内権門寺院との大きな差異。

鎌倉期を通じて鶴岡別当・供僧の宗派転換が定期的に生じ、大規模な寺社強訴が発生していないことを踏まえれば、一定の限界はありつつも、ある程度高いレベルでの統制は達成されていたとみるべきではないか。

◎鎌倉顕密寺院で強訴が発生しなかった理由
・畿内権門寺院と朝廷との関係…朝廷は寺院への直接的な保護・統制を放棄、寺院の自立性を前提に国家的法会や修法、六勝寺などを通して、権門寺院の上層部の把握に努めた(上島2013)。
⇔幕府と鎌倉顕密寺院との関係…修法や法会を通じての統制を試みた点は同様だが、幕府は鎌倉顕密寺院への直接的な保護・統制を放棄していない。朝廷が権門寺院の長官職の補任権を掌握するのみであったのに対し、幕府は供僧職など長官職より下のレベルの役職まで掌握。
・大衆組織の存在感…史料上その存在感は極めて希薄。幕府の強い保護統制下に置かれたため、幕府の御願を担う供僧クラスの僧侶が必要とされただけで、寺院の自治を下支えする大衆の必要性は高くなかったために、人数は限定的だったか。
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鎌倉の寺社には大衆(寺院の自立性・自律性を維持するための暴力装置)が存在しない。
鎌倉の寺社は幕府に従属する、いわば宗教的な「御家人」。
幕府に「奉公」し、「御恩」を蒙る存在。
   ↓
東国には権門体制論に言う「寺家」が存在しない。
従って東国には「権門体制」が存在していない。

東国では正統的暴力は幕府が独占している。(正統的暴力=法に支えられた暴力)
権門体制論が仮に正しいとしても、それはあくまで西国の法秩序。
西国では幕府は正統的暴力を独占していない。
「寺家」も、御家人以外の武士も暴力を分有。
それらは朝廷の法により正統性を有している。

新年のご挨拶(その2)〔2021-01-03〕
承久の乱後に形成された新たな「国際法秩序」〔2021-10-01〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/c6e725c677b4e285b26985d706bf344c
川合康氏「鎌倉幕府研究の現状と課題」を読む。(その4)〔2023-03-09〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/445055e235c4074de2517fb032953962
0024 佐藤雄基氏の研究について(その1)〔2024-01-24〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/b40ce7a34a7da740383ef93a82085e32

二、高鳥廉氏の報告「足利将軍家所縁の五山派寺院にみる政治秩序」について

高鳥廉(北海道武蔵女子短期大学教養学科専任講師)
https://researchmap.jp/r-taka

全体の構成
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はじめに
 ◎運営委員会からの課題
 ◎なぜ五山派禅宗寺院に注目するのか
 ◎所縁寺院を考えるための視点
第1章 足利将軍家所縁寺院の全体像
第2章 足利将軍家所縁寺院の人的基盤と機能
 第1節 将軍家出身僧・室町殿猶子の立場と役割
 第2節 将軍家所縁寺院の価値と機能
第3章 大名家・守護家の所縁寺院と室町武家社会
 第1節 武家社会と所縁寺院
 第2節 武家勢力所縁の寺院・禅僧の機能と役割
おわりに
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0092 常在光院の謎〔2024-05-27〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/53632983d2ab44192b0acdda2bca0e27

質疑応答で原田正俊氏が『無外如大尼 生涯と伝承 中近世の女性と仏教』(思文閣出版、2024)に言及。
https://www.shibunkaku.co.jp/publishing/list/9784784220793/

原田正俊「女人と禅宗」(『中世を考える-仏と女』所収、吉川弘文館、1997)
http://web.archive.org/web/20061006213406/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/harada-masatoshi-nyonintozenshu-01.htm

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歴史学研究会中世史部会は、個人としては仏教その他の信仰を持たず、かといって宗教学について格別の学問的素養も持たない研究者が、中世仏教の煩瑣な儀式や僧侶の出自・派閥・出世の方法について熱く語る場である。
https://x.com/IichiroJingu/status/1795292252526576049

歴史学研究会は、その形成・発展の歴史から、一般社会以上に宗教感情が希薄な集団。
今後は「宗教的空白」が形成された歴史的過程とその地域的偏差に興味を持ってくれる人が増えると嬉しい。
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