学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

吉河光貞についてのメモ(その1)

2015-06-28 | 石川健治「7月クーデター説」の論理
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 6月28日(日)07時12分54秒

23日の投稿で吉河光貞について少し触れましたが、ちょっと気になって三国一朗が吉河をインタビューした記事、「国際諜報団『ゾルゲ・尾崎事件』」(『昭和史探訪3』、番町書房、1975、p151以下)を読んでみたところ、それなりに面白かったものの、若干のモヤモヤ感も残りました。
まず、同記事には吉河の写真が2葉出ているのですが、思想検事・公安調査庁長官という経歴から何となく予想した冷徹・酷薄な雰囲気はなく、分厚いレンズのメガネをかけた学究肌の人ですね。
インタビューの時期が盛夏で、ラフな開襟シャツを着ているため、農民運動の指導者みたいな感じにも見えます。
冒頭の人物紹介は以下の通りです。

--------
吉河光貞(よしかわみつさだ)
一九〇七(明治四〇)年、東京、本郷に生まれる。昭和五年、東京帝国大学法学部卒業。六年一一月高等文官試験司法科合格。東京地裁予備判事、岡山地裁検事、名古屋地裁検事等を経て、一四年九月東京区裁兼刑事地裁検事。二三年一一月、特別審査局長、二四年一月東京高検検事特審局長。二六年アメリカへ出張。二九年、最高検検事。三九年、公安調査庁長官、四十年、欧州、東南アジア、四一年アメリカへ出張。四三年、広島高検検事長。四四年退官。現在、東京都吉祥寺に在住。
--------

公安調査庁長官で退官かと思ったら、最後は広島高検検事長でしたね。
さすがに戦前の学生運動や共産党入党歴などには触れていません。
本文の冒頭を少し引用すると、

-------
─ 吉河さんは、ゾルゲ、尾崎という大物に直接お会いになって、取調べという形ではありましたが、やはり人間的な接触もおありになったと思います。ゾルゲ、尾崎の人間像を中心に伺いたいのです。
吉河 とにかく世界的な革命家ですからね。スパイだけが最高目的じゃないんで、世界革命の一環に寄与するということでやっていましたから。当面はソ連の防衛、進んでは世界の革命という、遠大な政治思想を持っている。だから、秘密の設計図を盗むとか、そういうありきたりのスパイとはディメンション(次元)がちがうんです。普通の人が考えるように、ソ連に機密を売ったとか、そういう性質のものじゃない。金は全然関係はない。やはり日本、ソ連、中国の共同体、社会主義共同体の建設が日本国民のみならず、全人類に幸福と平和をもたらす、という信念ですね。そのために情熱を燃やして仕事をし、それを望みながら死んでいったわけですね。
─ いつからこの事件を担当されましたか。
吉河 九月二八日(昭和一六年)に北林トモが、一〇月一〇日(同年)に宮城与徳が検挙された、その直後です。北林トモが捕まると自供があって宮城を押え、宮城も死線を越えて自供した。このように自供が中心になって事件が発展していくわけです。
─ 共産党員の伊藤律が密告者として働いたという説がありますが・・・。
吉河 伊藤律が検挙されたのは、日本共産党再建準備委員会の事件で、これは、前の年のことですね。伊藤の事件は、五〇名ほどの検挙者があって、割合簡単に送検されて、岡嵜格君が主任検事で調べていました、主だった者を。調べが終わったあとで、余談として民間における左翼情勢、ちらばっている残存分子を聞くわけですね。拘置所の僕の調べ室の隣りの調べ室で岡嵜君が伊藤律を調べておった。岡嵜君に「ちょっと吉河さん、来てください」と言われて行ってみると、伊藤律が調べられている。そこで伊藤が北林トモについてしゃべったことをきいたわけです。伊藤は自分の事件についてはすっかり自白して、べらべらときかれもしないこともしゃべっておりました。非常に如才のない、頭の切れる代わりに、インテリの弱さもかなり持っているサロン・マルキストでしたね。(月報参照)
-------

ということで、月報には「岡嵜君」の「伊藤律のこと」というエッセイが載っています。
伊藤律(1913-89)に対する「非常に如才のない、頭の切れる代わりに、インテリの弱さもかなり持っているサロン・マルキスト」という人物評はちょっと面白いですね。
高度なドイツ語・英語能力を買われてゾルゲ担当となった吉河は、外部からは「非常に如才のない、頭の切れる」人物と見られていたでしょうが、同時に「インテリの弱さもかなり持っている」かつての「サロン・マルキスト」と評価されていたかもしれません。
あるいは自己評価というべきか。

砂川事件判決の核心に迫らない批評〔2015-06-23〕
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ♪冷蔵庫のなかで凍りかけた憲... | トップ | 吉河光貞についてのメモ(そ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

石川健治「7月クーデター説」の論理」カテゴリの最新記事