学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

「葛野友太郎」の仕事

2008-12-30 | 佐藤優『国家の罠』&モロゾフ・野坂参三
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年12月30日(火)23時49分49秒

今までのモロゾフ関係の投稿は、基本的にはモロゾフ家側から書いたので、モロゾフ社にとっては愉快でない内容だったと思います。
しかし、モロゾフ社を近代企業に育て上げたのはひとえに葛野友太郎氏の功績であって、モロゾフ家が中心にいたら今のような規模の会社にはなっていなかったでしょうね。
『大正ロマンをチョコレートに包んで-モロゾフ文化を創った「葛野友太郎」の仕事-』(井上優著、オリジン社、1993)は、いかにもモロゾフ社らしい洒落た装丁の本で、なかなか面白いですね。
この本はマーケティングのコンサルタントとしてモロゾフ社に関与した人が書いたもので、「葬儀を行わないこと」を遺言とした葛野友太郎氏の意向を尊重し、「偲ぶ会」の開催に代えて出版されたのだそうです。
そこには以下のような記述があります。

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 (自分のこと)については寡言であった「葛野友太郎」は、京都時代については、ことさら寡言でした。
そして、その寡言であることが、いろいろな憶測を呼んで、いろいろな(伝説)を生み出します。そして人生の後半には、その(伝説)が、不思議な意味を持ち始めます。(p36)

 「葛野友太郎」が(社会主義的)なのか(資本主義的)なのかという論議や推測は、「葛野友太郎」の周辺に、生涯、ついて回りました。「葛野友太郎」の(神秘性)や(カリスマ性)が高まるにつれて、この論議や推測は、ますます多くなりました。
 しかし、これは、それほど難解な問題ではなさそうです。
 明治の終わりに生まれ、大正に教養を身につけて、大正デモクラシーを築いた大正リベラリストの共通の性向だといえます。
 この時代の、すべての若者たちは、社会主義や共産主義の洗礼は多かれ少なかれ受けてますし、一方では、近代的な資本主義の教養を体験しています。社会主義と資本主義の双方を、兼ねて、持っていることのほうが、大正デモクラシー的であったといえます。もし、社会主義か資本主義の、いずれかの一方を表明し支持しても、これは、一方の選択であって、他方の否定でないことが、大正デモクラシーの特徴といえます。大正リベラリストが、頑なに対峙し、否定し、拒否し続けたのは、むしろ、台頭する軍国主義でした。社会主義の支持を選択したひとも、資本主義の支持を選択したひとも、共通して拒否したのは、軍国主義でした。
 しかし、日本の近代思想史のなかにおいて、大正リベラリストたちが生まれ、育ったのは、非常に短い時代です。このため、日本の社会では、大正リベラリストは、常に(少数派)です。文学や芸術の世界では、辛うじて(大正ロマン)として目立った存在の大正リベラリストも、日本の経営の社会では、全くの少数派です。

 第二次世界大戦の終わった後の日本の経営の社会で、「葛野友太郎」は、少数派の、大正リベラリストの経営者でした。
(企業の社会的役割)を、次第に確信していく「葛野友太郎」の仕事には、社会への思いと社員への思いが、いつも大きい比重を持って、(社会派)的な経営の様相が目立ち始めます。
 そして、一方、(企業の経営的対応)では、構造変化の基本の手法としては、(近代的な経済学による手法)を基盤にします。
そのときには、いつも、(銀行)の協力を図ります。そして、その都度、資本の再構築を行います。ここでは、(資本派)的な経営の様相が目立ち始めます。(p71-72)
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葛野友太郎氏は単に会社を大きくしただけでなく、独自の企業文化を育て、従業員を大切にし、業界全体の発展にも多大な貢献をした人で、経営者としては本当に立派な人物ですね。
ところで、葛野友太郎氏は平成4年(1992)8月5日に亡くなったそうですが、これはかなり微妙な時期です。
というのは、『闇の男 野坂参三の百年』の元となる『週刊文春』の記事は、同年9月3日号から11月5日号にかけて連載されており、これがきっかけとなって野坂参三は日本共産党の名誉議長を解任され、更に党を除名される訳ですが、この記事の中には葛野友太郎氏の叔母である野坂龍(旧姓・葛野)についての、相当ショッキングな記述もあります。
葛野友太郎氏がこの記事を見る前に亡くなったことは、ある意味、幸せだったのかなと思います。

野坂参三
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%9D%82%E5%8F%82%E4%B8%89
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