学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

鵜飼秀徳『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』

2019-02-03 | 「五〇年問題」と網野善彦・犬丸義一
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2019年 2月 3日(日)20時04分7秒

昨日の日経新聞の読書欄で、本郷和人氏が鵜飼秀徳『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、2018)を激賞されていますね。

日本史ひと模様 戸田光則 家の存亡を懸けた廃仏毀釈

本郷氏は廃仏毀釈の「ムーブメントがかくも熾烈を極めたものであったことに度肝を抜かれた。この時の破壊がなければ、仏教芸術の国宝(建築物、仏像、絵画など)は、なんと現在の3倍の量になったはずだという」と、私にはそれほど驚かなくてもよいように思われる事情に驚かれた後、

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 それ以上に驚くべきは、政府の法令と廃仏毀釈の関係性である。勤王・佐幕を問わず、幕末の人々に多大な影響を与えたのは水戸学である。この政治思想は神道を重んじていて、それゆえに水戸藩では、葬送も僧侶ではなく神官の手に委ねることが既にあった。そうした水戸学の影響下にあった、明治政府が、仏教の否定に精勤したとばかりぼくは思っていた。いや、ちがう! 政府はあくまで神と仏の分離を促しただけなのだ。それを受けた国民の側が、率先して寺院の破壊を行ったのだ。
 なぜそうした動きが生まれたか。著者は自ら足を運んだ豊富な事例をもとに、次の4つの理由を挙げる。①権力者(たとえば地方自治体の首長など)の(中央への)忖度、②富国策のための寺院利用(本堂の木材を小学校建設に転用する等)、③熱しやすく冷めやすい日本人の民族性、④僧侶の堕落。
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と述べられ、ついで①の例として藩主の菩提寺を含め、廃寺を徹底した松本潘のケースを詳しく紹介されています。
私は松本藩についてはきちんと調べたことがないので、後で鵜飼著を確認してみるつもりですが、それにしてもこの四分類はちょっと奇妙ではないですかね。
特に③は他と並べてよいものなのか。
また、例えば藩主の菩提寺は残したものの、相当徹底した廃寺を行った富山藩などはどこに分類されるのか。
富山藩で廃仏毀釈をリードした林太仲には①の中央への忖度は特になく、銃砲を整備するために金具を集めるということを名目にしたので、②の変形でしょうか。

「藩士の守旧思想を破壊して、進取の志気を鼓舞せん為めに」 (by 岡田重家氏)
「有耶無耶の間に自然消滅になりました」 (by 岡田重家氏)
林太中(はやし・たちゅう)について
母方はオランダ外科医の長崎家
「広沢兵助と近かった」(by 安丸良夫)は本当なのか?
「真宗貴族」との階級闘争

まあ、鵜飼著を読んでもいないのにあれこれ言うのは避けますが、アマゾンの書評等を見る限り、従来の研究水準を超える何かがあるようには思えません。
「ルポルタージュ」としては面白いのかもしれませんが。

>筆綾丸さん
日経記事の「正規のルート」という表現は、ちょっと莫迦っぽい感じがしますね。
拘置所に拘束されているゴーン元会長と「正規のルート」を外れて面会したら建造物侵入で犯罪になってしまいます。
「正規のルート」以外はありえないのに、あまりに大袈裟ですね。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

お礼 2019/02/02(土) 12:51:45
小太郎さん
ご丁寧にありがとうございます。よくわかりました。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2019/01/102526.html
無関係な話で恐縮ですが、元木泰雄氏『源頼朝 武家政治の創始者』を100頁ほど読んで、草臥れました。年のせいか、昔のような根性がなくなりました。

源頼政の最期について、
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 ・・・平氏の追撃を受けて、頼政らは木津川の河原で、そして以仁王も南都(興福寺)を目前にしながら光明山の鳥居の前で落命した。(50頁)
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とありますが、頼政は平等院の門内で七十過ぎの皺腹を掻っ切り、頸は石に括りつけられて宇治川に沈められたのであって、木津川ではないですね。木津川畔で斬首された平重衡と勘違いしたのかな。

http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yorimasa.html
 埋れ木の花さく事もなかりしに身のなる果ぞ悲しかりける
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