大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第17回

2013年07月26日 14時14分27秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第17回



会社へ行けば 相変わらず斜め前に見えるビルの窓が気になる。

「いったい何なのかしら・・・あの真ん中の窓から見られているような気がしてならないわ。 それに何か不気味な感じ」 だがその窓はずっと閉められたままで ビル自体に誰が居るわけではなかった。

男性陣のお昼、営業は勿論弁当などは持ってこず 外回り先での外食だが ほかの者は大半が弁当持ちだ。 俗に言う愛妻弁当である。

しかしその弁当も 1階は1階で食べ 3階の5人は 仕事と同じく奥の事務所でPCを見ながらなので 弁当を持ってきている森川と琴音だけが この事務所で食べるということなのだが 昼の時間になると 森川がおもむろに 小さなテレビを出してきて 毎日決まった連続ドラマを見ているようだ。 

そんな森川とは お昼の会話など無いものだから 琴音は本をもってきて読んでいた。 

元々本を読むのが好きで 前の会社に努めていた時も図書館で本を借り、家でずっと読んでいたが 職探しを始めてからは暫く読んでいなかった。 


小学校の時から読み始めた動物の本、それが最初だった。 

中学を卒業するまでは ずっと動物の本ばかりを読んでいた。 ペットや家畜の本ではない。 野生動物の本である。 その頃の夢は野生動物保護官になることだった。 それ故、幼いながらも少しでも知識を増やそうと 動物の生態から始まり筋肉、骨格のつき方にまで及んで読んでいた。 

だが小学校の頃の夢は実現することなく 動物とは全く縁のない人生を歩き出していた。

高校に入った頃には動物とは関係のない本を読みはじめた。 

ずっと働き詰めの母親の肩をもみ、背中をほぐしとしていた事がきっかけで 何とか有効なほぐし方はないだろうかと 今度は整体や人体の本も借りて読むようになってきていた。 

知識を頭に入れ素人ながらも母親の身体をほぐす事は出来たが 短大も卒業し、就職のために一人暮らしを始めるようになってからは 母親の身体ををほぐす事もなくなり 今度は小説を読み始めていたのだ。 


悠森製作所に入ってからは 少し前までは風水の本を借りて読んでいたのだが 最近では陰陽道の本を借りて読んでいた。 

本を読みながらいつも横に見える森川の姿を見て
(森川さん今までも こうして一人でテレビを見ながら お昼を食べていたのかしら。 何年こうしてきたのかしら) 一人を好む琴音ではあったが さすがに60歳を超して毎日会社で一人の食事というのは寂しさを感じた。


悠森製作所に入り もう少しで1ヶ月が経とうとした時の事である。

森川と話をしていると 森川の周りに山を見たときに見えるものと同じ白いものが見えた。 

「え!? どうして?」 山に見えるのは小さな頃からだから慣れてはいるが 人に見たのは初めてだった。

山と違い間近で見るからなのか目がチカチカして開けていられない。 相手の目を見るどころか姿さえ見る事ができない。

「どうしよう・・・森川さんと話すときに目を逸らしてしまう」 目を逸らせて話す事は相手にとって失礼な態度であると考えていた琴音にとっては 大きな悩みになった。

そんな時 事務所に入ってきた会長に応接室へ来るようにと呼ばれた。 琴音が応接室のソファーに座るなり

「どうですか? 1ヶ月経ちましたが 経理の仕事はやっていけそうですか?」 こんな質問があると予想していなかった琴音は 少し考えて

「難しいです。 難しいですが やっていけなくは無いと思います」 そう答えながら

(うわ! なんてことを答えてるの? 出来るはずないじゃない) 心の中で叫んでいた。 

でもそう言わなければいけないんだよ。 辞めるにはまだ早すぎる。 まだね。 始まったばかりなのだから。

「森川さんは引継ぎを今年で終わらせて 後は退職しますけど 一人でやっていけそうですか?」

「え? 森川さんお辞めになるんですか?」 寝耳に水だ。

「あれ? 言ってなかったかな? 森川さんが辞めるから引継ぎで 求人募集をかけたんですよ」

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