1991年4月、ここ裏磐梯にわれわれ家族は居を移した。
家はカラマツ林を伐採し、その中に建てられた。
カラマツを切りたくない、敷地内にできるだけカラマツを残してほしい、無理にお願いした。
結果、家のすぐそばに10数本のカラマツが伐採を逃れた。
地元の人もヤニ、細かい落ち葉が屋根の隙間に入り込み腐食を進めるなど、カラマツの人家に与える害を訴え、カラマツの伐採を再三勧めていたのだ。
当時カラマツの芽吹き、新緑の美しさに魅せたれていた私は余計なお世話、とこれも無視。
だが、これは10数年後大いに後悔することになった。落ち葉の被害は我慢できるとしても・・・
ある日、下水が完全に流れなくなってしまった。業者に原因を調べてもらうとカラマツの根が下水管の隙間から進入し、完全に下水管を塞いでしまっているという。
下水管からずるずると引き出されたカラマツの細根の10数メートの大蛇のような束・・・
その他カラマツの貪欲なまでの大地からの養分、吸水する力を恐れ知ることとなった。
カラマツは遠くで眺めるだけでいい、家の周り数十メートルにカラマツはいらない。苦々しくカラマツを見上げる日々・・・
そして今日、初めて表庭のカラマツ伐倒を決意する。根元にある大きくなった洞が強風などによっる不意の倒れ込みの恐れが大きくなっていた。
雪のクッションのある、カラマツの葉をすべて落とした休眠時期、材に水分の少ない伐倒ベストシーズン、今を逃したらチャンスはない。
隣家に近い伐倒、失敗は絶対許されない。裏庭の樹木の伐採は何度も経験しているが受け口、追い口、樹木伐採の再勉強。
結果、慎重になりすぎた、恐れすぎた。反面必要な準備を欠いていた。
昨日は目立てと調整、出来上がったチェーンソーの引き取りに会津の中屋善兵衛に行っている。
なにせここは樵のプロショップ、クサビ、ハンマーなど腐るほど置いてあっただろうに。なぜ気づかず買い忘れたのだろうか。
すばらしく使い心地のよさそうな中屋善兵衛の刻印したシングルハンドの斧に心動かされたためだろうか・・・
伐倒方向を何度も確認し、作業に入る。慎重に受け口、追い口を切る。だが思い通りに倒れない。受け口の切り方が小さすぎた。だがもう修正はできない。
クサビ代わりに追い口に斧をハンマーで叩き込むがハンマーが小さすぎて斧が跳ね返されてしまう。どうしよう・・・焦る。
こんな場合クサビは絶対必要、強風が吹かぬよう祈りながらクサビを買いに車を猪苗代に。
ダブルハンドの大型のハンマー、そしてクサビ、店にはクサビが1個しか置いてない。また斧を代用するしかない。
家に戻り追い口にクサビを打ち込み始める。追い口の隙間がなくなっている。このままでは反対方向、隣家に倒れる恐れがある。
焦る。必死でクサビを打ち込む。やっと少しずつ食い込み始める。さらに斧を打ち込む。クサビ、斧、交互に打ち込む。やがてメリメリと大きな音を立てながら思い通りの方向に伐倒・・・
枝払い、玉切り、半分ほど薪割り。直径40cm、年輪を数える。50数個の年輪、カラマツの生命を奪った罪悪感を感じる。
家に運び込みストーブにくべる。室内に針葉樹のすばらしい香り、遠い思い出、2冬、家を建てるため伐採したカラマツを燃やしていた・・・
あのすばらしい香り・・・