初めてコマクサに出会ったのは後立山、天狗岳の稜線、黒部側の斜面だった。
白馬から後立山縦走、朝の光の下、朝露に濡れ風に打ち震えて咲くコマクサに偶然出会う。
夢中で何度もシャッターを切った、それは鮮烈な記憶としていまも残る。
今改めてこのちっぽけな粗末なモノクロ写真を見てあのときの感動はいったい何だったのだろうか、と思う。
当時の山頂はゴミの山が当たり前、登山者のモラルも一般的にはとても低く、高嶺の花の女王は心無い登山者によって盛んにむしりとられていた時代、
どの山でもコマクサは激減し、とても希少な、誰もが憧れを抱く高嶺の花、といた時代背景、それはアルプスのエーデルワイスと似た存在であった。
その後コマクサを求めて、大きな群落を求めて、白いコマクサを求めて北アルプスの山をさまよい歩いた遠い昔があった・・・
今では登山者のモラルも比べることのできぬほど向上し、どの山でもコマクサは数を増し、それほど珍しい植物ではないらしい。
このごろ園芸店でよくこの花を見る。品種改悪された真っ赤な花、四季咲きと称すもの・・・
孤高の女王としての気品を失った、それは目を背けたくなるような姿であった。