ブレッド湖にて(続)

 
 彼女はリュブリャナからの日帰りで、明日にはヴェネツィアに発つのだという。
「北イタリアじゃ数日前、かなり大きな地震がありましたよ」と、相棒が教える。
「エッ! テレビ観てないから、全然知りませんでした!」
 相棒は旅先では、言語と文化の学習のために、朝な夕なテレビ番組をサーフィンするのだ。 

 それから旅談義となった。旅先で日本人に出くわして、その日本人と旅談義したのは、思えばこれが初めてのこと。彼女は、もうすでに一ヶ月少し、一人旅の旅行中なのだという。
「旅行、大好きなもんで! 仕事、やめちゃったんですよ。海外でやってけるように、ツテ作ってるところなんです!」
 明るくて、はきはきしていて、バイタリティがある。さっさと日本を飛び出して、何とか海外で生活基盤を作ってしまおうという魂胆。立派、立派。

「人生、仕事やめて旅行するのが正解ですよ。僕ももっと若いうちから、そうすればよかった」と相棒が煽る。
「現地で仕事見つけて、現地で友達作って、現地で結婚しちゃうの」と私も煽る。
「夏にはロンドン行きが決まってるんですよー。オリンピックがあるでしょ、サッカーのチケットくらい取りたいですね。でも、マラソンはチケットなくても観れるでしょ、だから絶対観ます!」

 ブレッド湖に向かうバスのなかでも旺盛に喋る。
「英語はまだまだ勉強中。喋れます?」とオトメ。
「喋れない。読めるけど。わざわざ勉強する気ないの。観光業以外じゃ英語通じない国のほうが多いし」と私。
「世界じゃ、英語しか喋らない旅行者には、親切にしてもらえないよね」と相棒。
「あー、私もウクライナに行ったとき、ロシア語しか話してもらえなかった!」とオトメが悔しがる。
 旅行の分野では、私たちより彼女のほうがはるかに先輩だった。

 To be continued...

 画像は、ブレッド城横からの湖眺望。

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