ボーヒン湖にて

 
 スロヴェニア屈指の観光名所であるブレッド湖から、少しばかり足を延ばすと、同国最大の氷河湖、ボーヒン湖(Bohinjsko jezero)に着く。かのアガサ・クリスティも好んで滞在し、「ここは、私の小説の舞台になるには美しすぎる」と評したという神秘の湖。湖水には、第二次大戦中にナチス・ドイツが持ち込んだという、黄金のマスが泳いでいるのだとか。
 
 以下、旅の日記から。

 のち 昨日一周したブレッド湖を、もう半周し、坂を上って駅に出る。車窓からの眺めが風光明媚とガイドブックに載っているボーヒン鉄道に乗ってみたかった、鉄道ファンの相棒。ほんの数駅、ボーヒン湖まで鉄道の旅。
 ブレッド湖はあんなに賑やかだったのに、駅にはほとんど誰も人がいない。貨物列車がやって来ると、駅員が帽子をかぶってホームまで出てくる。旧社会主義国の鉄道では、列車が駅を通過するたびに、駅員が列車に挨拶をするらしい。

 旧社会主義国らしい、座り心地の悪い、質素な列車。もちろん電光掲示板なんてない。アナウンスすらない。窓外を流れる山河のなかに、ふと駅舎が現われかねない田舎さ。
 そろそろ次の駅が近づくたびに、落ち着いた、慣れたふうな地元客とは反対に、旅行客たちは窓を全開し、外に半身を乗り出して、ガーッ! と風に吹き殴られながら、駅舎の名を読み取ろうとする。

 駅からバスに乗り、ボーヒン湖に到着したところで、雨になった。スーパーや観光案内所や郵便局が並ぶ軒下で雨宿りしながら、日本に絵葉書を書く。
 屋根際にはツバメの巣がわんさとあって、空の低いところは、どこもかしこもツバメが気ぜわしく飛び交っている。
 
 To be continued...

 画像は、ボーヒン湖。

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