ギリシャ神話あれこれ:12の功業その5

 
 難業その5は、アウゲイアス王の厩を一人で、しかも一日で掃除すること。

 エリスの王アウゲイアスの厩舎には、3千頭もの牛が飼われている。が、その途方もない牛糞は30年間掃除されたことがなく、石よりも硬くなって手のつけようがなかった。
 ヘラクレスは王を訪ね、エウリュステウス王の命令は内緒にして、牛の1割をくれたら厩を掃除してやろう、と持ち出す。王は、ふふん、と話半分に了解するが、ヘラクレスのほうは珍しく相当な思慮を働かせ、王の息子ピュレウスを証人に立てる。

 で、ヘラクレスは、なんとまあ、厩舎の近くを流れるアルペイオスとペネイオスの両川の水を強引に引いてきて、厩舎の一方から他方へ、大穴を開けて流し込み、水流に任せて怖るべき糞山をいっぺんに洗い流してしまった。……だって、そりゃあ、英雄が汚物にまみれて、正攻法で掃除するのもねえ。
 流れの狂ったこれらの川は、以来、洪水ばかり引き起こすようになったとか。

 王はと言えば、開いた口が塞がらない。急に牛が惜しくなって、なんだかんだと口実をつけて、約束に反故にする。
 憤慨したヘラクレス、証人として王子ピュレウスを引っ張り出す。王は息子が偽証すると思っていたらしい。が、信義を重んじたピュレウスが誓約の事実を認めると、見当違いの怒りを爆発させて、ヘラクレスとピュレウスをエリスから追放してしまった。
 ヘラクレスは復讐を宣言し、先を急ぐので、ひとまずおとなしくエリスを去った。

 エウリュステウス王は、ヘラクレスが厩掃除に川神の力を借りたため(ギリシャ神話では、名のついた山や川にはそれぞれ神格が存在する)、これをノーカウントとした。
 相変わらずセコい王だこと。 

 To be continued...

 画像は、スルバラン「アルペイオス川の流れを堰き止めるヘラクレス」。
  フランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaran, 1598-1664, Spanish)

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