オランダ絵画によせて:イタリアネートな風景

 

 オランダ風景画に「イタリアネート派(the Italianate)」という流れがある。定訳ってあるのかな? と、掲示板で知り合ったプロの画家に訊くと、美術辞典などを調べたりしてくれて、結局、「いや~、私も美術史をかじったことはありますが、ついぞ聞いたこともありませんねえ」という返事だった。
 え、そうなの? それで、自分でもいろいろ検索してみたのだが、「親イタリア派風景画」という用語が一つヒットしただけだった。……定着した訳語ってないのかな、今でも疑問のまま。

 このイタリアネート派というのは、クロード・ロランらのイタリア風景画の影響を受けたもの。古代ローマの廃墟などイタリア的なモチーフを配した平原や田園の風景を理想郷的に描いている。
 初期には、そこに神話や聖書の人物が多く登場するのだが、これは下手をすると、どこぞの宗教のパンフレットの絵みたいで、ちょっと好きになれない。
 でもそのうちに、より自然に、家畜や馬などとともに農民や旅人が登場するようになる。夕光や逆光の効果も多様される。廃墟などのイタリア的なモチーフがなくなったものすらある。このあたりになると、趣が感じられるようになる。
 で、金色の光あふれる画面に、廃墟や橋、牛や馬を連れた農夫や旅人が陰濃く描かれてるというのが、私のなかでのイタリアネート風景画のイメージ。
 
 当時、オランダから画家たちがてくてくとイタリアまで赴いて、現地で描いたり帰国して描いたりしたらしい。当然、イタリアネート派は、その後オランダ風景画全般にも影響を与えたようで、例えばアルベルト・カイプ(Aelbert Cuyp)は、最初はホイエン風の単色調の風景を描いていたのに、徐々に牛、馬を連れた自然人物を配した、夕陽や月の光に照らされた水景を描くようになった。

 画像は、A.カイプ「牛を連れた川辺の牧夫」。
  アルベルト・カイプ(Aelbert Cuyp, 1620-1691, Dutch)
 他、左から、
  ベルヒェム「橋のあるイタリア風景」
   ニコラース・ベルヒェム(Nicolaes Berchem, ca.1620-1683, Dutch)
  ウィーニクス「川の浅瀬」
   ヤン・ウィーニクス(Jan Weenix, 1621-ca.1663, Dutch)
  ボト「海辺の廃墟」
   ヤン・ボト(Jan Both, ca.1610-1652, Dutch)
  デュジャルダン「騎乗の旅人のいるイタリア風景」
   カレル・デュジャルダン(Karel Dujardin, ca.1622-1678, Dutch))
  アセレイン「川とアーチ橋のあるイタリア風景」
   ヤン・アセレイン(Jan Asselijn, ca.1615-1652, Dutch)
 
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