バッハ 無伴奏チェロ組曲

 
 私が初めてクラシック音楽を最初から最後まで聴いたのが、バッハ(Johann Sebastian Bach)の「無伴奏チェロ組曲」。確かCDをレンタルしたんだったと思う。
 たった一本のチェロが奏でる、いかにも自然な、それでいて深みのある旋律を、私はすっかり気に入ってしまって、受験勉強のときは多分そればかり聴いていたように思う。音楽の形式も、どれがどう手が込んでいるやら修飾的やらも、分からないけれど、私にとってクラシック音楽で唯一、空気のような存在となった曲だ。

 ところで相棒は月に一度、カードのポイント2倍デーの日になると、クラシックCDを大量に仕入れに街へ行く。あるとき私は、「これも買って」と、バッハの無伴奏チェロ組曲を手渡してみた。もちろん、彼が改めてそれを欲しがるとは思ってなかったんだけど。
 が、
「この曲は、聴き逃した人間誰もが損失をこうむる、人類史上の知的遺産だね」と言って、気前よく買ってくれた。

 で、今でも私はよくこの曲を聴く。相棒によればチェロの音は、人間の声音に最も近いらしい。そう言われると、チェロの音って相棒の声に似ている。

 ナクソス・ジャパン社にヒアリング調査に出かけたとき、社長に「一番最初に聴いたクラシック音楽って、何?」と訊かれた私は、おずおずと、バッハの無伴奏チェロ組曲だと答えた。社長は眼を丸くして笑った。
「随分とまた渋い曲から入ったもんだねえー!」
 え、そうなの? バッハのチェロって渋いの? そんなことも知らない、クラシック音楽初心者だった。

 画像は、T.エイキンズ「チェロ奏者」。
  トマス・エイキンズ(Thomas Eakins, 1844-1916, American)
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