夢の話:昇り降り

 
 さて、私は子供の頃、団地の4階に住んでいて、空に飛び立つのはほとんどこの4階からだった。
 知る人ぞ知る天王山の麓の住宅街で、私の住んでいた団地から始まって、棟2列に並んで、東に山のほうまで段々に団地が続いていた。つまり私の住んでいた団地は、団地群の一番裾野にあったわけだ。西には鉄道の線路があった。
 家の南側はベランダ、北側は窓とランドリーで、そのいずれにも、かなり高めの手すりの柵が付けてあった。現実では母に神経質に注意され、その柵に手をかけたことすらなかったのに、夢のなかで私は柵から身を乗り出し、足をかけてよじ登り、そしてその柵を蹴って、空へと飛び立つのだった。

 たまには追う相手が窓やベランダから侵入してくることもあるが、そういうときは玄関から脱出する。当然、1階まで階段を降りるのだけれど、この場合ももちろん飛行しながら降りる。
 地面めがけて飛ぶときはいつもそうなのだが、私は鷹や鷲のように顔から急降下なんてできない。足から降りる。階段の場合は、最上段から一気に下までふわりと飛び降り、そのまま手すりをつかんでグルンと踊り場を半回転し、同じように繰り返して次々に階段を飛び降りていく。この間、地に足の着くことはない。

 逆に4階まで昇らなくちゃならない状況もある。階段を昇る場合、私の飛行能力はほとんど役に立たない。手すりにつかまって、いちいち身体をぬ~いと引っ張り上げていく。
 おそらく、足で階段を踏み昇るほうが断然速いと思う。が、私の足は地には着かないのだ。

 階段を使わずに、ベランダや窓を目指して4階まで昇る場合には、立っている姿勢で両脚を一つに揃え、ぐいと曲げてビヨーンと伸ばす方法で昇る。まず地を蹴って宙に立つ。そして両脚を曲げ、その足裏の地点をさも地面であるかのように再び宙を蹴って、立ち上がる恰好で両脚を伸ばして、さらに上の宙に立つ。
 こうやって地道に空中を上昇する。滝の流れに逆らって登る魚の如く、重力に引き戻されつつ、えっちらおっちらと上昇していく。

 To be continued...

 画像は、ブーグロー「夜」。
  ウィリアム・アドルフ・ブーグロー
   (William Adolphe Bouguereau, 1825-1905, French)


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