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魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-

 世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記

ギリシャ神話あれこれ:月神セレネ

2015-02-08 | 僕は王様
 
 我が家の黒猫の名はルナルナという。ドラゴンズのホームランバッター、エクトル・ルナから、相棒が命名した。私はもっと、濁音の混ざった意味ありげな名前がよかったんだけれど、相棒は柔らかい響きのほうがいいと言い張って、ペネロペだの、キーラだの、ウィノナだの、エマだのと候補を挙げる。……全部、女優の名前じゃんか。
 結局、黒いからって理由で、ドミニカ出身のパヤノだのブランコだのと挙げ出したので、ルナで手を打った。ルナには月という意味があるから、黒猫っぽいかもと思ったんだ。

 月の女神セレネ(ルナ)は、太陽神の兄ヘリオス、曙神の妹エオスとともに、世界を照らす光明の3神の一神。
 彼らはそれぞれ手ずから手綱を取って、二頭立ての黄金の馬車を御して天空を駆ける。太陽神ヘリオスを曙神エオスが先導し、月神セレネが後に従う。セレネが天を駆けているあいだは、夜というわけ。

 ヘリオスが昼、太陽に照らされた世界で起こる事件をあまねく眼にするのと同様に、セレネは、夜の出来事をあまねく見護る。月の光は夜闇を照らし、夜陰に迷う者を導き、夜陰に乗じる者を明るみに出す。
 同じく月の女神として、アルテミスやヘカテと同一視され、満ちゆく月、満月、欠けゆく月、という三相を持つ一体神のうちの一神と見なされることもある。月に関わる権能から、女性の生理的周期、つまり生命の繁殖も司る。

 浮気な兄ヘリオスや、恋多き妹エオスとは異なり、セレネが自ら(しかも一方的に)恋慕った恋人は、約一名、かの有名なエンデュミオンだけ。
 セレネは絶世の美男エンデュミオンが老いていくのを嫌い、生きたまま永遠に醒めない眠りを与える。そして、夜ごとエンデュミオンのもとを訪れて、眠る彼に寄り添い、眠る彼を愛で、眠る彼と交わる。で、メネと呼ばれる50人もの暦月の女神たちを生んだという。
 ……どうも神さまのやることは不自然だよね。

 画像は、ハレ「ルナ」。
  エドワード・チャールズ・ハレ(Edward Charles Hallé, 1846-1914, British)

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ギリシャ神話あれこれ:デウカリオンと洪水(続々々)

2015-01-15 | 僕は王様
 
 唖然とするデウカリオン夫婦。が、母を大地、骨を岩と解釈し、ものは試しと、地上の石ころを拾って肩越しに後ろに投げてみら。すると、たちまち石は骨となり、その周りの泥は柔らかい肉となって、人間の姿に変化する。
 喜んだ夫婦は、せっせと石を投げて人間を作る。デウカリオンが投げた石は人間の男に、ピュラの投げた石は人間の女になった。
 こうして再び人間は地に満ちる。

 なお、ギリシャの神々が大雑把なせいか、デウカリオン夫婦以外にも洪水を生き残った人間たちが、結構いる。
 例えば、ゼウスの息子、アルカディアの王ダルダノスらは、膨らませた皮袋に乗ってイダ山へと逃れた。同じくゼウスの息子、メガロスも、鶴の鳴き声に導かれてゲラニア山まで泳いだ。ポセイドンの血を引く、竪琴や縦笛を奏でる歌手でもあった羊飼いケラムボスは、ニンフたちに与えられたクワガタ虫の羽で、オトリュス山へと飛んだ。パルナッソス山の民も狼の遠吠えでいち早く洪水を知り、山頂へと逃れた。……などなど。
 デウカリオンの父夫婦、エピメテウスとパンドラもまた、大洪水を生き延びたという。 

 こうして青銅の時代は終わり、英雄の時代が到来する。

 画像は、G.B.カスティリオーネ「デウカリオンとピュラ」。
  ジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネ
   (Giovanni Benedetto Castiglione, 1609-1664, Italian)


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ギリシャ神話あれこれ:デウカリオンと洪水(続々)

2015-01-14 | 僕は王様
 
 水が大地を覆ってしまうと、デウカリオンの箱舟はぽっかりと浮かび、9日9夜、波のままに漂い流される。
 世界がほぼ水没し、人類がほぼ息絶えたのを見届けたゼウス神は、黒雲を切り裂くと、北風ボレアスを放つ。雲はたちまち吹き散らされ、青空が現われる。海神トリトンが海底から浮上し、法螺貝を吹き鳴らすと、水が引き、大地が現われる。

 ……聖書では、40日40夜のあいだ雨が降って洪水となり、その後、箱舟は数ヶ月間、水の上を流された。それに比べると、ギリシャ神話って単純で豪快で大雑把。

 さて、水が引くなか、箱舟はパルナッソス山頂に流れ着く。デウカリオンは箱舟を降り、ゼウス神に犠牲を捧げて感謝する。
 が、やがて、人類が世界からきれいさっぱり消えてしまったことに当惑し、悲嘆する。自分たち夫婦だけで、これからどうすればいいのやら……

 山腹に、法と掟の女神テミス(プロメテウスの母)の神殿があったらしい。夫婦のもっともな訴えに、テミス神が応える。
「大いなる母の骨を背後に投げよ」……

 To be continued...

 画像は、ベックリン「トリトンとネレイド」。
  アルノルト・ベックリン(Arnold Böcklin, 1827-1901, Swiss)

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ギリシャ神話あれこれ:デウカリオンと洪水(続)

2015-01-13 | 僕は王様
 
 海神ポセイドンも、大神の御意とあらばとしゃしゃり出て、三叉鉾で大地を打つ。ポセイドン神の権能は海、そして泉と地震。大地は揺らぎ、水という水が噴き出して、あっという間に世界はあまねく海と化した。 
 聖書では神が、地上が海となるまで地道に雨を降り注がせたのだが、ギリシャ神話では、さすが海神、役割分担が半端ない。

 あれよあれよと都市は流され、わずかな山の峰を除いて、全世界が水没してしまう。人間たちは溺れ死に、わずかに水を逃れた者たちも、やがて飢え死んだ。
 こうして、青銅の種族と呼ばれた人類は滅亡する。

 さて、デウカリオン(デュカリオン)は、ゼウスの意に反して天界の火を盗んで人類に与えたプロメテウス神を父に持つ。妻は、プロメテウスの愚鈍な弟エピメテウスと、災厄の美女パンドラとの娘、ピュラ。デウカリオン夫婦は、傲慢な人類にあって、常に神々に対して正しく敬虔だった。
 大洪水の際、父プロメテウスから前もって警告されていたデウカリオンは、箱舟(あるいは櫃)を造って食糧を積み込み、天災に備えていた。いよいよ雨が降り始めると、妻とともに箱舟に乗り込む。

 To be continued...

 画像は、クール「大洪水の情景」。
  ジョゼフ=デジレ・クール(Joseph-Desire Court, 1797-1865, French)

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ギリシャ神話あれこれ:デウカリオンと洪水

2015-01-12 | 僕は王様
 
 全人類を滅亡させた洪水の伝説は、ギリシャ神話にもあって、ここでは神に選ばれて洪水を生き延び、人類の始祖となったのは、ノアならぬデウカリオンという人物。

 ますます眼に余る人類の暴状を深く嫌忌した大神ゼウス。とうとう、天災を起こして人類を滅ぼそうと決意する。
 ……以前、ゼウスは、人類に災いをもたらすために「女性」パンドラを作って、地上へと送り込んだ。思惑はまんまと成功し、以来、地上には災いが、したがって罪悪が蔓延する。自分が招いた結果を、そうなってみるとやっぱり嫌だというのだから、神さまは我儘だ。

 さて、ゼウス神が人類に愛想を尽かした契機となったのは、アルカディアの王リュカオンの罰当たりな行為だという。王はアルカディアにゼウス信仰を広めたのだが、祭祀のために人間の赤ん坊を殺して供犠していた。旅人に身をやつして王を訪れたゼウスにもまた、末息子ニュクティモスを殺して肉料理を供したという。
 激怒したゼウスは、リュカオンとその一族を狼に変え、館を雷霆で焼き払う。

 で、ゼウスは地上に大洪水を送ることにする。北風ボレアスを岩窟に閉じ込めて、南風ノトスを存分に暴れさせる。たちまち空は真っ黒な雨雲で覆われ、豪雨が降り注ぐ。

 To be continued...

 画像は、メルワール「「洪水、妻を抱えるデウカリオン」。
  ポール・メルワール(Paul Merwart, 1855-1902, Polish)

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