ギリシャ神話あれこれ:ヘカテ

 
 私は子供の頃、ギリシャ神話のなかで、ヘカテが一番好きだった。大体私は、悪魔的なもののほうに、より惹かれる。
 
 真実というのは単純だし、一つしかない。他方、真実から外れると、さまざまなバリエーションが可能となる。
 「金田一少年の事件簿」に登場する天才奇術師、高遠の、「犯罪者はあらゆる犯罪を生み出すが、探偵はそれを解決することしかできない」という主張と同じ(……が、人間の尊厳を否定することは、対等を否定することになり、従って知の発展を否定することになるので、高遠の主張は間違いなのだが。念のため)。

 もちろん、真実から外れるので、現実世界で悪魔的なものを選択したことはない。私にとって悪魔的なものへの憧憬とは、イマジネーションの世界でしかあり得ない。が、イマジネーションの世界に限れば、悪魔的なもののバリエーションが大いに魅力なわけ。

 ヘカテは闇の女神。魔力が集まるという三叉路や十字路を支配し、呪術や幻術を司る。不思議なほどゼウスから尊敬を受けるが、神話の物語にはあまり登場しない。
 ティタン神族の血族で、レトの妹である星の女神アステリアの娘とされる。

 本来は古い大地神だったが、次第に、冥界と縁故の深い女神となる。ハデス、ペルセフォネに次ぐ、冥界のナンバー・スリーたる権威を持ち、猛犬ケルベロスを従えて冥界の門を預かる。
 月明かりの郊外の夜道を、松明を手に、冥府の犬族の一群を引き連れ疾駆して、旅人を脅かす。
 亡霊の女王として、幽鬼や妖怪など、あらゆる魑魅魍魎を操る。また、隠秘で怪奇なあらゆる事象を引き起こし、魔術の使い手をことごとく手下とする。魔女メデイアもヘカテを信仰し、ヘカテの魔術に長け、ヘカテを召喚している。

 また、エンプーサ(蟷螂)やモルモ(夜盗蛾)ら、邪悪な女神たちを従者とする。このうちエンプーサは、ロバの脚と青銅の脚とを持つ異形の夢魔で、自由に姿を変えて、男と交わりそれを喰らうという。
 
 月の女神として、しばしばアルテミスやセレネと同一視される。月の女神は、満ちてゆく月(乙女)、満月(母)、欠けてゆく月(老婆)の3つの位相を持ち、このうちヘカテは、月が破壊や解体、消滅の力を発揮する、欠けゆく月を司るとされる(ギリシャ神話では、同じ神格がしばしば3つの相で表わされる)。
 ヘカテ自身が、3つの顔を持つ姿で描かれることもある。夜の三叉路に居座り、それぞれの顔がそれぞれの道を見つめている、というわけ。

 ヘカテの様相はいわゆる魔女であり、中世には、夜空を飛翔する魔女として、魔女たちの秘儀にて崇められたという。

 ……なんか、やっぱりぞくぞくする。

 画像は、ブレイク「ヘカテ」。
  ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757-1827, British)

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