ギリシャ神話あれこれ:ポセイドン

 
 手塚治虫の漫画に、「海のトリトン」というのがある。人魚のトリトン族と、海の支配者ポセイドン族との戦いを描いた冒険ファンタジーで、結構面白い。これに登場するポセイドン王は、猪の顔をした頭でっかちの悪者。
 例によって私は子供の頃、海の世界に憧れたのだけれども、「ジョーズ」を知ってからは、怖くて海には入れなくなった。

 ポセイドン(ネプトゥヌス、ネプチューン)は海の神。海洋とあらゆる水域を治める。
 海底深くの宮殿に住まい、白馬の馬車を駆って海を渡る。三叉鉾を手にし、それを振り上げれば大洋の波が湧き立ち、伏せれば静まる。ひるがえる波頭は、ポセイドンの馬だと言われる。彼は馬とは縁が深く、神馬アリオンやペガソスは彼の子供たち。
 が、粗暴で短気で、荒々しくて怒りっぽい。あまり王者の風格がない。地震や津波は、彼の怒りによって起こるのだとか。

 ゼウスに及ばないとはいえ、相当の恋愛遍歴を重ねながら、あまりロマンティックなものがないのは、そのせいかも知れない。キオネ、アロペ、メラニッペ、オリオンを産んだエウリュアレ、金羊を産んだテオパネと、あまたの恋人があるのに、どれもいまいち面白い話がない。
 大体、ポセイドンは、産まれた子供に対しては多少の庇護を与えるくせに、女性に対しては、やり逃げして、そのままほったらかしなのだ。
 
 例えば、カイニスとの場合。テッサリアの王女カイニスを無理やり犯したポセイドン神は、彼女の願いをなんでも叶えてやると約束する。で、彼女は、傷を負わない屈強な男になりたい、と答える。願い叶えて、ポセイドンは、はい、さよなら。
 男となったカイニスは、カイネウスと名乗り、男ならではのさまざまな冒険を繰り広げる。が、ラピタイ族として、ケンタウロス族と戦った際、剣では負傷しなかったのだけれども、木やら岩やらで生き埋めにされ、殺された。

 テュロとの場合。非常な美少女だったテュロに懸想したポセイドンは、彼女が大変に好きだった川神の姿に化けて、川辺に足を運んだ彼女に言い寄り、想いを遂げる。結果、彼女は双子を産むが、継母シデロから虐待され、赤ん坊を馬の牧場に棄てる。その後も虐待され続けるが、ポセイドンは見て見ぬ振り。
 子供たちは牝馬に乳を与えられて育ち、成人すると、母テュロの復讐に、シデロを殺す。

 メドゥサとの場合。メドゥサはもともと類稀な美少女で、殊に髪は美しかった。で、ポセイドン神の寵愛を受けたのだが、アテナ神の妬みを買い、ふた目と見られぬおぞましい姿に変えられてしまう。鱗に覆われた身体、真鍮の爪と牙、蛇の髪。ポセイドンは、ウンともスンとも言わない。
 抗議した姉たちも女怪にされる。これがゴルゴン3姉妹。のちにメドゥサは、英雄ペルセウスに首を切り落とされる(アテナはこの首を自分の盾の装飾にした)が、このときメドゥサはポセイドンの子を身籠っていたため、飛び散った血潮からは、神馬ペガソスが生まれた。

 ネプチューンはもちろん海王星の名前。 

 ……かくしてポセイドンとは、乱暴で好色なくせに、鷹揚さも腹の太さもない、原始的な男神であるように、私には見える。手塚治虫のポセイドン像も、あながち的外れではない。

 画像は、W.クレイン「ネプチューンの馬」。
  ウォルター・クレイン(Walter Crane, 1845-1915, British)

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