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魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-

 世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記

ギリシャ神話あれこれ:ナルキッソスとエコー(続々)

2014-02-27 | 僕は王様
 
 あるとき、泉の水を飲もうと屈み込んだナルキッソスは、泉のなかに類稀な美しい少年の姿を見とめ、一目で恋に落ちてしまう。もちろんこれは、水面に映った自分自身の姿。他人を愛せない彼に、復讐の女神は、自分を愛するよう仕向けたのだった。
 ナルキッソスが見つめると、同じく見つめ返してくれる、美しい少年。笑いかければ向こうも笑い、涙を流せば一緒に泣き、腕を差し伸べれば腕を差し伸べ、唇を差し出せば唇を差し出してくる。けれども、いざ少しでも触れようとすると、途端に姿をかき消してしまう。

 何という切なさ、もどかしさ。ナルキッソスは泉から離れることなく水面を見つめ続け、飲みも食いも眠りもせずに、次第に衰弱していく。彼が「ああ!」と溜息をつくたびに、彼を見守るエコーが「ああ!」と繰り返す。
 ナルキッソスはやつれ果てて、とうとう力尽きる。
「虚しい恋人よ、さようなら」
 息絶える間際の最後の言葉を、「さようなら、さようなら」と、そばでエコーが繰り返す。
 あるいは、ナルキッソスは、水のなかの自分に接吻しようとして泉に落ち、溺死したともいう。

 森のニンフたちは、かつてナルキッソスに相手にされなかったことも忘れて、彼を葬ってあげようと、泉のそばへとやって来た。するとそこには亡骸はなく、ただ一輪の水仙(ナルキッソス)の花が咲いていたという。

 画像は、ウォーターハウス「エコーとナルキッソス」。
  ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
   (John William Waterhouse, 1849-1917, British)


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     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-

ギリシャ神話あれこれ:ナルキッソスとエコー(続)

2014-02-26 | 僕は王様
 
 こんなエコーが、美しいナルキッソスを見初めて、恋い焦がれるようになる。エコーはこっそりとナルキッソスのあとを追いまわしていたのだが、ようやく話しかける機会を得る。
 あるとき、森のなかに迷い込んだナルキッソスは、ふと、エコーの気配を感じて声をかける。
「そこにいるのは誰だい?」
「誰だい、誰だい」
「出ておいで」
「おいで、おいで」
 エコーは嬉々として姿を現わす。が、エコーには想いを伝える術はない。ナルキッソスが、愛している、と言ってくれなければ、愛している、と言葉にすることすらできない。

 同じ言葉しか繰り返せないエコーに、ナルキッソスはすぐに退屈してしまう。ふん、君と一緒にいるくらいなら、いっそ死んでしまいたい。
 エコーは絶望し、「死んでしまいたい、しまいたい」と泣きながら、森の奥の洞窟に閉じ籠もる。募る悲しみのために痩せ細り、骨と皮だけになり、終いには声だけが残って木霊になってしまった。

 一事が万事この調子で、他人を愛さずつれなく撥ねつけるナルキッソスを、恨みに思ったニンフの一人が、復讐の神ネメシスに祈る。彼もまた、恋い焦がれながらも報われぬ思いを、味わいますように、と。
 
 To be continued...

 画像は、A.グラス「ナルキッソス」。
  アドルフ・ヨーゼフ・グラス(Adolf Joseph Grass, 1841-1926, German)

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     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-

ギリシャ神話あれこれ:ナルキッソスとエコー

2014-02-25 | 僕は王様
 
 自分のことしか愛さないナルシスト。その語源がギリシャ神話にあるのは、超有名な話。
 このエピソードがこんなにも有名なのは、人間の人格、アイデンティティーにおいて、自己愛というものが不可欠な存在だからだろう。健全な自己愛を持つ優秀な人間が、低俗な周囲との関係のなかで、自分自身に最も関心を向ける、そんな真っ当な意味での孤高のナルシストを、私は本来好きだったんだけれど……

 ナルキッソスの物語をまとめておくと……

 ギリシャ神話には美少年はごく当然の存在だが、ナルキッソスもまた大変な美少年だった。その姿を一目見ただけで、どんな娘も若者も魅了させるほどの美しさ。
 が、ナルキッソスのほうは、どこの誰に愛されようがまったくの無頓着で、いずれの求愛もすげなく斥ける。しばしば無情な侮辱の言葉をもって。

 そんなナルキッソスは、誕生の際、こんな予言を与えられていた。
「この子は長寿を得るだろう、もし自分自身を知ることがなければ」
 ……テバイの稀代の予言者テイレシアスが、赤ん坊のナルキッソスを連れた母リリオペに告げたのだった。

 さて、エコーという美しい森のニンフがいた。

 エコーは美しい一方で、お喋りなニンフで、あるとき、ヘラ神が夫ゼウスが浮気に出かけた行方を突きとめようとやきもきしていた際に、返事もせずにぺちゃくちゃとお喋りをしてしまう。怒ったヘラは、
「お喋りなニンフめ! お前は、余計なことは喋らずに、言われたことだけを返事すればいいのだよ!」
 ……というわけで、哀れ、エコーは、ヘラの呪いで、相手の言葉の終わりの文句を繰り返す以外に、口が利けなくなってしまう。

 To be continued...

 画像は、カルピオーニ「盲目の予言者テイレシアスと赤ん坊ナルキッソス」。
  ジュリオ・カルピオーニ(Giulio Carpioni, 1613-1678, Italian)

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ギリシャ神話あれこれ:犬になったヘカベ(続々)

2014-02-24 | 僕は王様
 
 さらに別伝では、ヘカベは、オデュッセウスに呪いをかけようとして、逆に殺されそうになったところを、逃してやろうとした神々によって犬に変わったともいうし、ケルソネソスに渡った際に、オデュッセウスら一行によって殺され、犬と化したその霊魂が海に飛び込んでヘレスポントス海峡へと泳ぎ去ったともいう。

 ……他にもバージョンがあるのかも知れない。

 共通したイメージは、一族の辛酸を舐めに舐めたヘカベが、牝犬に姿を変えたこと。それは、魔女ヘカテに付き従う守護獣である、モイラと呼ばれる火のように燃える眼をした黒犬だったこと。
 犬はヘレスポントス海峡へと消えたこと。
 ヘカベが埋葬された地は、トラキア、ケルソネソスで、そこには“犬の墓石”があること。
 ヘカベが犬に変じたのは、トロイア陥落後にヘカベがオデュッセウスの戦利品となってからで、その後、オデュッセウス一行には、苦難の帰途が待っていたこと。

 ちなみに、末王子ポリュドロスにも、いろいろと別伝がある。
 
 ポリュメストル王がヘカベに言い訳したとおり、ポリュドロスはトロイアに戻ったのかも知れない。トロイアの戦場で、自慢の俊足に驕って戦っていたところを、あっさりアキレウスに殺された、ともいう。
 
 あるいは、ポリュメストル王に嫁いだトロイア王女イリオネが、父プリアモスから、生まれたばかりの末弟ポリュドロスを預かった際、彼の安全を確実にするために、末弟と、王とのあいだに生んだ実子デイピュロスとを入れ替えて、末弟を我が子として養育したともいう。
 やがてポリュメストル王は、ギリシア軍にそそのかされてポリュドロスを殺すのだが、実はそれは、自分の息子であるデイピュロスだった。のちに、イリオネから真実を告げられたポリュドロスは、王の眼を潰して殺し、復讐を遂げた。

 画像は、クレスピ「ポリュメストルの眼を潰すヘカベ」。
  ジュゼッペ・マリア・クレスピ(Giuseppe Maria Crespi, 1665-1747, Italian)

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ギリシャ神話あれこれ:犬になったヘカベ(続)

2014-02-23 | 僕は王様
 
 とにかくヘカベは、トロイアを滅ぼされ、夫や息子たちはことごとく殺され、娘や嫁は敵将らの妾にされ、幼い孫は処刑され、一方で、これら災厄の元凶ヘレネがのうのうと、敵将の王妃として勝利の凱旋をするのを目の当たりにして、憤怒と憎悪と怨嗟でギリギリしながら慟哭する。そしてその姿は、次第に犬へと変わっていく。
 犬になったヘカベは、さらに石へと変わっていく。これを見たギリシアの予言者カルカスは、石の犬を船に乗せ、ヘレンポントス海峡に流してやったという。

 別伝では、戦中、トロイア王プリアモスは、王家の血筋を絶やさぬようとの計らいで、トラキア、ケルソネソスの王ポリュメストルのもとに、莫大な黄金とともに、末王子ポリュドロスを預けておいた(ポリュメストルは、トロイア王女イリオネの婿であるらしい)。ヘカベは、オデュッセウスに連れられてケルソネソスへ渡った際に、そのポリュドロスの遺骸が浜に流れ着いていることを知らされる。
 ヘカベは発狂し、憐れんだ神々が、彼女を犬に変えたという。

 また別伝では、ケルソネソスへ渡ったある夜、ヘカベのもとに末王子ポリュドロスの霊が現われ、自分は、黄金に眼がくらんだポリュメストル王に殺された、と告げる。
 王の裏切りに対して、ヘカベは自ら復讐しようと決意し、王に会わせてくれるようオデュッセウスに懇願する。
 王はヘカベに、ポリュドロスが自分も参戦しようと勝手にトロイアに帰ってしまったのだ、黄金も一緒に持っていってしまったのだ、と嘘をつく。
 ヘカベは侍女らとともに、王の二人の息子を短剣で刺し殺し、王自身の両眼を抉り取って、復讐を果たす。

 その後、ヘカベは慟哭しながら、犬の墓石と化す。あるいは、この変化は、眼を潰されたポリュメストル王が、「牝犬になれ!」と呪ったためともいう。
 あるいは、盲目にされた王が、「溺れ死ぬだろう」とヘカベの死を予言したともいう。ヘカベはオデュッセウスとともにイタケへの帰途、犬に姿を変え、帆柱に登ると、そのまま海に落ちて溺れ死んだ。

 To be continued...

 画像は、スタルベント「ポリュドロスの亡骸を見つけるヘカベ」。
  アドリアーン・ファン・スタルベント
   (Adriaen van Stalbemt, 1580-1662, Flemish)


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