古来、黒猫は魔女の使い魔だという理由で厭われてきた、というのは、よく聞く話。が、私のなかではずっと、魔女に付随する獣は、黒猫ではなくて黒犬だった。
けれども、よく考えてみると、黒犬は、魔女の使い魔ではなく、魔女そのもの、魔女の化身なのだった。
私のこんな黒犬のイメージがどこから来たのかと言えば、子供の頃に読んだヘカベの物語に遡る。トロイア戦争後のヘカベについては、あれやこれやの別伝があって、もう何がどうなっているのやら……幼い私の頭は混迷を極めたものだが、ただ、ヘカベは犬になった、というイメージだけは一貫していたっけ。
ヘカベはトロイア王プリアモスの正妻。つまり王妃。魔術を使えそうな雰囲気紛々で、パリスを産んだときにもトロイア滅亡の予知夢を見た、不穏で陰気な存在。
さて、イリオス陥落の後、トロイア王家の女たちは、婢妾として、ギリシア軍の諸将らに分配される。王女カッサンドラは、総大将アガメムノンの愛妾、王子ヘクトルの妻アンドロマケは、アキレウスの遺児ネオプトレモスの愛妾に。王女ポリュクセネは、アキレウスの霊前への生贄に。
そして王妃ヘカベは、オデュッセウスの戦利品に。
……え? なんでオデュッセウスだけ、ヘカベの婆さん? いくら王妃ったって、こんな婆さん貰ってもなあ。
と思いきや。オデュッセウスとしては、戦中、乞食に化けてイリオスに潜入し捕獲された際に命だけは助けてもらった、その借りを、ヘカベを保護することで返したのだという。
To be continued...
画像は、ロマーノ「ヘカベの夢」。
ジュリオ・ロマーノ(Giulio Romano, ca.1499-1546, Italian)
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