ギリシャ神話あれこれ:犬になったヘカベ(続々)

 
 さらに別伝では、ヘカベは、オデュッセウスに呪いをかけようとして、逆に殺されそうになったところを、逃してやろうとした神々によって犬に変わったともいうし、ケルソネソスに渡った際に、オデュッセウスら一行によって殺され、犬と化したその霊魂が海に飛び込んでヘレスポントス海峡へと泳ぎ去ったともいう。

 ……他にもバージョンがあるのかも知れない。

 共通したイメージは、一族の辛酸を舐めに舐めたヘカベが、牝犬に姿を変えたこと。それは、魔女ヘカテに付き従う守護獣である、モイラと呼ばれる火のように燃える眼をした黒犬だったこと。
 犬はヘレスポントス海峡へと消えたこと。
 ヘカベが埋葬された地は、トラキア、ケルソネソスで、そこには“犬の墓石”があること。
 ヘカベが犬に変じたのは、トロイア陥落後にヘカベがオデュッセウスの戦利品となってからで、その後、オデュッセウス一行には、苦難の帰途が待っていたこと。

 ちなみに、末王子ポリュドロスにも、いろいろと別伝がある。
 
 ポリュメストル王がヘカベに言い訳したとおり、ポリュドロスはトロイアに戻ったのかも知れない。トロイアの戦場で、自慢の俊足に驕って戦っていたところを、あっさりアキレウスに殺された、ともいう。
 
 あるいは、ポリュメストル王に嫁いだトロイア王女イリオネが、父プリアモスから、生まれたばかりの末弟ポリュドロスを預かった際、彼の安全を確実にするために、末弟と、王とのあいだに生んだ実子デイピュロスとを入れ替えて、末弟を我が子として養育したともいう。
 やがてポリュメストル王は、ギリシア軍にそそのかされてポリュドロスを殺すのだが、実はそれは、自分の息子であるデイピュロスだった。のちに、イリオネから真実を告げられたポリュドロスは、王の眼を潰して殺し、復讐を遂げた。

 画像は、クレスピ「ポリュメストルの眼を潰すヘカベ」。
  ジュゼッペ・マリア・クレスピ(Giuseppe Maria Crespi, 1665-1747, Italian)

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