ギリシャ神話あれこれ:犬になったヘカベ(続)

 
 とにかくヘカベは、トロイアを滅ぼされ、夫や息子たちはことごとく殺され、娘や嫁は敵将らの妾にされ、幼い孫は処刑され、一方で、これら災厄の元凶ヘレネがのうのうと、敵将の王妃として勝利の凱旋をするのを目の当たりにして、憤怒と憎悪と怨嗟でギリギリしながら慟哭する。そしてその姿は、次第に犬へと変わっていく。
 犬になったヘカベは、さらに石へと変わっていく。これを見たギリシアの予言者カルカスは、石の犬を船に乗せ、ヘレンポントス海峡に流してやったという。

 別伝では、戦中、トロイア王プリアモスは、王家の血筋を絶やさぬようとの計らいで、トラキア、ケルソネソスの王ポリュメストルのもとに、莫大な黄金とともに、末王子ポリュドロスを預けておいた(ポリュメストルは、トロイア王女イリオネの婿であるらしい)。ヘカベは、オデュッセウスに連れられてケルソネソスへ渡った際に、そのポリュドロスの遺骸が浜に流れ着いていることを知らされる。
 ヘカベは発狂し、憐れんだ神々が、彼女を犬に変えたという。

 また別伝では、ケルソネソスへ渡ったある夜、ヘカベのもとに末王子ポリュドロスの霊が現われ、自分は、黄金に眼がくらんだポリュメストル王に殺された、と告げる。
 王の裏切りに対して、ヘカベは自ら復讐しようと決意し、王に会わせてくれるようオデュッセウスに懇願する。
 王はヘカベに、ポリュドロスが自分も参戦しようと勝手にトロイアに帰ってしまったのだ、黄金も一緒に持っていってしまったのだ、と嘘をつく。
 ヘカベは侍女らとともに、王の二人の息子を短剣で刺し殺し、王自身の両眼を抉り取って、復讐を果たす。

 その後、ヘカベは慟哭しながら、犬の墓石と化す。あるいは、この変化は、眼を潰されたポリュメストル王が、「牝犬になれ!」と呪ったためともいう。
 あるいは、盲目にされた王が、「溺れ死ぬだろう」とヘカベの死を予言したともいう。ヘカベはオデュッセウスとともにイタケへの帰途、犬に姿を変え、帆柱に登ると、そのまま海に落ちて溺れ死んだ。

 To be continued...

 画像は、スタルベント「ポリュドロスの亡骸を見つけるヘカベ」。
  アドリアーン・ファン・スタルベント
   (Adriaen van Stalbemt, 1580-1662, Flemish)


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