元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ターン」

2009-11-10 06:38:00 | 映画の感想(た行)
 2001年作品。交通事故のショックにより、パラレル・ワールドで同じ日を繰り返すことになってしまった女性の運命を描いたドラマ。北村薫の同名小説を村上修が脚色。第5回プチョン国際ファンタスティック映画祭の最優秀監督賞受賞作品でもある。

 同じ一日が何度も何度も繰り返されるというプロットはハロルド・ライミスの「恋はデジャ・ブ」などで使用済みだが、この映画のヒロインが巻き込まれる“繰り返す日常”には原則として彼女以外の人間が存在しないという点で目新しい。この“誰もいない世界”の映像化は、映画のモチーフとしてはすこぶる刺激的だ。人っ子一人いない東京の街の描写は、コンピューター処理によって通行人をすべて消去することで実現出来たものだが、ヒロインの孤独をこれだけ具象化できる仕掛けは他になかろう。

 話をSF仕立てにせずファンタジー方面に振っているせいで、“外界”から一本の電話がかかってくるという半ば強引な展開もあまり違和感がない。主演は牧瀬里穂と中村勘太郎。どちらも嫌味のないキャラクターで好感が持てるが、思い込みの激しいヒロインに扮する牧瀬の演技は出色で、これは久々に彼女の代表作になりそう。ケレンを廃した平山秀幸の演出も的確で、現時点で「しゃべれども しゃべれども」と並んで彼の最良作だと思う。

 清涼な空間の切り取り方が印象的な藤澤順一のカメラ、ミッキー吉野の音楽も良い。ただし、終盤にはもうひとつ工夫が欲しかったけどね。なお、この作品は当初ワーナーマイカルのみの公開であった。そのせいか入場料が安かったけど、劇場がいずれも都心から離れているのは少し辛かったことを覚えている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする