元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「沈まぬ太陽」

2009-11-11 06:25:09 | 映画の感想(さ行)

 日本航空をめぐる昨今の状況と照らし合わせてみると面白い。序盤部分で、劇中JALをモデルにした国民航空の労組委員長・恩地が、副委員長の行天と共に労使交渉を勝ち抜き、従業員の待遇改善を勝ち取ることが描かれる。確かに労働条件を向上させることは、利用者にとっての安全性に寄与するところであろう。しかし、飛行機に乗る側の利益に関する部分は、それ以外は中盤で新しい会長が整備士制度を改めるよう提案するシークエンスぐらいで、あとは全くない。

 ここにあるのは役員同士の足の引っ張り合いと、利権欲しさの政治家の暗躍と、労働組合と経営側との確執のみだ。肝心の利用者のことは全然頭にないらしい。僭越ながら、JALの低迷の原因はこういった内向きの経営ベクトルにあると思ってしまう。

 何が“我が国きってのナショナルフラッグキャリア”か。そんなのは庶民のあずかり知らぬ理由によってたまたま半官半民の形態を取ったことによる、粉飾されたプライドに過ぎない。航空会社はJAL以外にも存在する。ちゃんと安全かつ効率的に飛行機を運行してもらえば、半官半民だろうと完全民営だろうと関係ないのだ。利用者を無視して社内の覇権争いばかりしているような会社は、とっとと退場していただきたい。

 さて、本作は山崎豊子の同名小説の映画化で、原作の長さを反映してか3時間22分の大作に仕上がった。若松節朗の演出は正攻法だが、何となく“テレビの大河ドラマ風の映画作り”をしているように思う。つまり、万全に仕上げてはいるのだが今ひとつ映画的興趣に欠けるのだ。

 渡辺謙扮する恩地は正義感溢れる“昭和のオヤジ”そのもので、不器用なために損ばかりしているが、人望もある好漢だ。三浦友和演じる行天は絵に描いたような悪役。余談だが、彼がスーツを着て登場すると紳士服チェーン店のCMを思い出してしまう(本作の衣装提供にもそのチェーン店が一役買っている)。石坂浩二や加藤剛も貫禄を見せる。松雪泰子や鈴木京香の女優陣も悪くはない。ただし、それらは観客の予想の範囲を出ないのだ。

 ストーリー自体も元ネタがベストセラー小説なので筋書きは知れ渡っており、意外性は皆無だ。もっと観る者をアッと言わせるような、思い切った脚色を施した部分があっても良かったのではないか(たとえば、主人公の心の闇をクローズアップするとか)。航空会社はもちろん出版・放送といった映画業界における大手スポンサーを敵に回して撮りあげたスタッフの心意気は買いたいが、それだけで目的を達成したような雰囲気が見て取れる。

 なお、日本航空は不快感を示しており、経営陣は“しかるべき措置を講じることも検討している”ともコメントしているらしい。しかし、たかが映画に噛み付くよりも、自分達の台所事情を何とかしろと言いたいのは私だけではあるまい。
コメント
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