元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「悪夢のエレベーター」

2009-11-07 07:14:17 | 映画の感想(あ行)

 後味の悪い映画だ。あるマンションのエレベーターに4人の男女が閉じ込められる。全員、人に話せない事情がある“訳あり”の連中だ。とはいえ極限状態では建前だけ取り繕うわけにはいかず、各人が抱えた悩みが噴出し、事態は混迷の度合を色濃くしてゆく。果たして彼らは脱出できるのか・・・・という設定のシチュエーション・コメディだ。

 どんでん返しが連続する、いわゆるコン・ゲームの形式を取っているが、どうもその段取りがスマートではない。勘の鋭い観客にとっては、この4人がエレベーターに乗った理由が、状況と辻褄が合っていないことに最初から気付くはずだ。誰かが誰かをハメるために仕組んだ罠だというのがミエミエで、果たしてその通りにネタが明かされる。

 さらに悩ましいことに、ドラマの焦点はエレベーターの中ではなく、エレベーターを出たところにあったという図式が漫然と示される。これでは密室劇としての緊張感がネグレクトされ、単なる犯罪ドラマに落ち着いてしまう。つまり、作劇に一本芯が通っていないのだ。

 エレベーターの外に舞台を移してからは、この手の作品にはふさわしくない陰惨なモチーフが次々と出てくる(ホラー作品のようなテイストも満載)。終盤に至っては、作者がドラマ作りを投げ出したような荒っぽさ。映画が終わった後に観ている側の中でストーリーが収束していかないのだ。とにかく、後は野となれ山となれ・・・・というスタンスで作ってもらっては困る。

 監督は俳優や構成作家として活躍する堀部圭亮だが、個々の場面の描写に関してはデビュー作としては素人臭さはないものの、作品全体をまとめ上げる能力はまだまだである。登場人物の内面の切り込み方にしても、まるで食い足りない。特に冒頭の主人公のモノローグなんか、長い割には何も語っていない。

 主役の刑務所帰りの男を演じる内野聖陽は、まあけっこう良くやっている。ただ、すべてが予想範囲内だ。もっとハジけた演技をさせてもいいのではないか。ジョギングに出かけようとしていた怪しい中年男に扮するモト冬樹、妻の出産に立ち会うために急いでいた若い男の斎藤工、どちらも可もなく不可もなし。

 頭の中がキレているゴスロリ少女役の佐津川愛美は少しは面白い。だが、それは彼女の外見(衣装や御面相)によるものであって、パフォーマンス面で何か突出しているわけではない。芦名星や本上まなみといった脇の面子も特筆するべきものはない。印象的だったのは大堀こういちの怪演ぐらいだ。少なくともテンポが良いので観ている間は退屈しないが、あまり上等なシャシンではないことは確かだ。
コメント
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