元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブラックホーク・ダウン」

2009-11-14 07:36:43 | 映画の感想(は行)

 (原題:Black Hawk Down )2001年作品。1993年のソマリアで起きた壮絶な市街戦の模様を生々しい体感映像で再現。監督がリドリー・スコット、製作はジェリー・ブラッカイマーという、一種“好戦的”な面子によって作られている(笑)。

 序盤の兵士たちの日常を追った展開は退屈。戦闘シーンに入ると緊張感が出てくるが、正直言って、ヘリコプターの編隊飛行の場面を除けばそれほど特筆できる描写はない。何よりも兵士側に目立ったキャラクターが皆無で、しかも映画が中盤に達すると、誰が誰で何をしているのか判然不能になってしまうのには閉口した。それぞれの小隊の位置関係もさっぱりわからず、戦況の推移もほとんど掴めない。

 もちろんこれは意図的なもので、観客にも兵士と同様に混乱や混沌を体験してもらおうとの狙いがあるのは確実だが、それが劇映画として面白いかというと大いに疑問。この点、出来自体は特定の登場人物に絞り込んでドラマを進めた「エネミー・ライン」や「プライベート・ライアン」の方が上だ。

 それにしても、こういう題材の映画を観ていると、人命の価値には歴然とした格差があることを痛感せざるを得ない。この戦闘で死亡した19人のアメリカ兵は映画の終わりに実名をあげて追悼されるが、ソマリア人の犠牲者は、「千人以上」という数字が提示されるのみ。パックス・アメリカーナに反する者は人間ではないと言わんばかりだ。

 しかし、ここでいきおいヒステリックで近視眼的な反米スタンスに走るのも利口ではない。結局、アメリカが介入しようが撤退しようが、ソマリアみたいな自助努力の欠けた国は永遠に混迷の中を歩むしかないのだ。戦後、欧米諸国以外の敗戦国・新興国で自らによって立つことのできた国は日本や西ドイツをはじめごくわずか(しかもアメリカの援助によって)。あとの多くはズンドコだ。欧米主体の価値観に反感を覚えつつも、“アメリカ抜きでは世界秩序は語れない”という冷徹な事実に、我々は諦念を持って、また冷静に対処するしかないのであろう。
コメント
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