元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハンコック」

2008-09-11 06:44:17 | 映画の感想(は行)

 (原題:Hancock )期待していなかったが、けっこう面白く観た。少なくとも、同じヒーロー物ではヘンに深刻ぶった「ダークナイト」よりもずっと好きである。なぜなら作品世界の成り立ちに“筋が通って”いるからだ。

 不死身の肉体とスーパーパワーを持ったヒーローが品行方正な奴とは限らない・・・・という前提はさほど目新しいものではない。過去にも人間離れした力を持った者が悪の道に入るといった筋書きの映画はドラマはけっこう存在したし、スーパーマンやスパイダーマンだって一時道に迷ったこともある(笑)。しかしこのハンコックは、酒に溺れて道ばたでホームレス同然の暮らしをしていても、決して超能力を使って私腹を肥やしたり悪さを働いたりはしない。なぜなら、彼は絶対的に孤独だからだ。

 スーパーマンは異星人だが人間の両親に育てられ、カタギの仕事に就いている。スパイダーマンは“ひょんなことでパワーを得た一民間人”に過ぎないし、バットマンは多くのスタッフと一緒に会社を動かしている企業人である。皆一般社会との接点を持った奴ばかりだ。ところが本作の主人公は実社会から隔離されている。記憶を失っていることもあるが、自分が何者なのか分からない。善を成そうが悪行に走ろうが、彼にとって俗世間的なメリットはないのである。共同体にコミットしないままでのスーパーパワーの行使は、いくら表向きは善行だろうと、結果的に迷惑でしかないのだ。このへんの指摘が実に巧妙である。

 そんなハンコックが売れないPRマンと出会うことで、社会に受け入れられるようにイメージチェンジを図ろうとする。そのプロセスが面白い。自ら刑務所に入って更生したり、警察に依頼されて特別に出所した際には、警官たちに“グッジョブ!”と声を掛ける。社会との接点を持つことによって“公”への帰属意識が目覚めると同時に、それでも自分は皆とは違うのだということを思い知らされる。この矛盾に満ちた存在そのものがヒーローなのだ。

 この作品はアメコミを元にしてはいない。ヒーローが活躍することが揺るぎない前提となっているアメコミからは一歩引いて、ヒーローと実社会との補完関係を冷静に突いてくる、本作の製作スタンスはなかなか面白い。

 やたら強い悪役は出てこないが、最後まで主人公達を苦しめる武装強盗のグループはいかにも実在しそうで、凄んではいるけど所詮は絵空事の「ダークナイト」でのジョーカーよりはずっと迫真性がある。映画は終盤近くになってハンコックの生い立ちみたいなものが語られるが、それほど明確ではない。これは続編を睨んでのことだろう。

 主演のウィル・スミスは好調。破天荒な野郎が違和感なくスクリーンの真ん中に陣取っていられるのは、彼のキャラクターによるところが大きい。ヒロイン役のシャーリーズ・セロンも意外な役柄で笑ってしまった。ピーター・バーグのテンポの良い演出と盛り上がるアクション・シーン。金を払って観る分には損をしない映画だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする