元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「落語娘」

2008-09-07 07:19:05 | 映画の感想(ら行)

 とりあえずはウェルメイドだが、アピール度に欠ける。若い女流落語家を主人公にした本作にとって大いなる“逆風”になったのが、NHKの朝の連続ドラマ「ちりとてちん」の存在だろう。朝の連ドラ史上屈指の傑作と言われたあの番組は、語り口の巧みさもさることながら、とことんダメなヒロインが迷走しながらも自己を確立してゆくという、絶対的な普遍性を持ったメイン・プロットが広範囲な支持を得たのだと思う。

 対してこの「落語娘」の主人公は小さい頃から落語に親しみ、高校・大学と落研に属してかなりの実績を上げている。もちろんいくらアマチュアで活躍したといってもプロですぐに通用するはずもなく、目当ての師匠に入門を頼むもあっさりと断られてしまうのだが、そんな彼女を拾ったのが実力はありながら素行の悪さで謹慎処分中のベテラン落語家。彼のたった一人の弟子となった彼女が、師匠のセクハラに悩まされながらも(笑)、成長していく姿を描く・・・・という映画だ。

 主人公役のミムラは熱演で、相当な訓練を積んでいることが分かる。冒頭の前座の場面からスムーズに破綻なくネタを披露。寄席での立ち振る舞いも全く違和感がない。圧巻は買い物の途中で“寿限無”を練習しているうちに、いつの間にやら公園での“独演会”に突入してしまうシークエンスだ。演出の巧みさもあるのだろうが、この展開に耐えられるだけのスキルを獲得することに努力を惜しまなかった彼女の姿勢には感心してしまう。

 ただし、このソツのない演じ方が、ある意味裏目に出ていると思うのだ。つまり、技巧的には序盤から“出来上がっている”状態であり、話の進行によって技量がランクアップしていくといった興趣とは無縁である。その点「ちりとてちん」とは違ってイマイチ盛り上がらない。

 無軌道な師匠と熱心な弟子とのギャップは面白いが、それだけでは2時間近く保たせられないと思ったか、後半は因縁めいた出し物をめぐるオカルト・ミステリーの様相を呈してくる。これはこれで楽しめるし、ちゃんとオチも付いているところなど気が利いているが、しょせん“余興”の域を出ないだろう。原作(永田俊也著)との兼ね合いで仕方がないのかもしれないが、もっと平易な素材を積み重ねた方が質的に高いものを狙えたのではないかと思う。

 監督の中原俊は嫌味のない職人技に徹して好感が持てる。師匠役の津川雅彦の海千山千ぶりは言うまでもない。益岡徹、伊藤かずえ、森本亮治、利重剛といった脇も悪くなく、観て後悔はしない作品だ。しかし、前述の通り作劇の中心点がいささか薄いように感じられるので、高得点は望めないといったところである。
コメント
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