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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「鳴呼!おんなたち 猥歌」

2008-09-02 06:35:37 | 映画の感想(あ行)
 81年にっかつ作品。監督は今は亡き鬼才・神代辰巳。にっかつでは「赤い髪の女」とか「濡れた欲情」などの傑作を放っていながら、ロマンポルノ以外では凡作連発の不思議な作家である。この作品はにっかつでの代表作である。

社会から見捨てられた男の苦渋を描いて秀逸である。主人公は売れないロック歌手(内田裕也)。とっくの昔に40歳を過ぎていながらフラフラとした生活を送っており、女房子供はすでに家出し、今ではソープ嬢のヒモみたいな形でどうにか生きている。すべてを暴力的にしか行動することのできない男の心情を内田は的確に演じている。一見好色的でだらしないエゴイストに見える男の内面に、開き直ったふてぶてしさと気の弱さと優しさが共存し世の中から落ちこぼれた男のさびしさをざらついた画面がなぞっていく。

 新曲のキャンペーンと称して、場末のレコード屋の店先で、聴いてくれる客もいない吹きさらしの路上で歌うシーンは、はっきり言ってスゴイ。その薄汚く化粧した中年ロック歌手のアップ、そして無関心に通り過ぎる街の雑踏を見せつけられると、心の中にひゅうひゅう北風が吹きまくる思いである。

 パンを食いながらシャワーを浴びる場面、客とのトラブルから大ケガをした愛人のソープ嬢の病室で看護婦(中村れい子)を襲ったり、ヒワイなステージ・アクションで乗りまくったり、弟分(安岡力也)の恋人に手を出したり、そんなメチャクチャな行動のひとつひとつが、単に暴力的というより、男の苦悩が強く臭うのは、醒めきった作者の視点があるからに違いない。

 この映画での性的場面はちっとも官能的でなく、反対に寒々とした登場人物たちの内面がうつし出される。人間本来の孤独が描かれる。

 ラストは、歌手をやめ、事故で死んだ愛人のかわりに、地方の女性用ソープ(そんなのが実際あるのか私は知らないけど)で必死に働く主人公の姿、そして主人公の別れた妻とねんごろな関係になっていく弟分の場面だ。まったく救いようのない結末ながら、絶望的な暗さにならないのは、男の優しい心情がかくし味としてはめ込まれているからだろう。見事な秀作で、その年のキネマ旬報誌ベストテンの5位にランクされている。
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