元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「デトロイト・メタル・シティ」

2008-09-30 06:43:40 | 映画の感想(た行)

 ネタとしては面白いのだが、監督の腕が三流であるため凡作に終わっている。大分県の片田舎から渋谷系ミュージシャンを目指し上京した軟弱青年が、うっかり入ってしまった事務所の方針によりデスメタルバンド“デトロイト・メタル・シティ”のリードヴォーカルをやらされる。素顔を隠した分厚いメイクで“ヨハネ・クラウザーII世”なるおどろおどろしいキャラクターを嫌々ながら演じると、これが大ウケで観客動員も楽曲の売り上げもうなぎ登り。ますます本人の意志に反する事態に追い込まれ大いに悩む・・・・というコメディ(原作は若杉公徳の同名コミック)。

 本作の笑いの焦点は、当然ながらオシャレなノリの歌手を望んでいる“表向きの顔”と、ステージ上で過激なパフォーマンスで暴れ回る“裏の顔”とのギャップ、およびそれら二つの顔が現れるタイミングであるはずだ。しかし、これがどうも上手くない。

 たとえば前半、主人公が想いを寄せている相手とのデートと“ヨハネ・クラウザーII世”として出演するイベントとを掛け持ちする場面がある。秒刻みでコスチュームを着たり脱いだりのドタバタを展開させて観客の哄笑を呼ぼうという作者の作戦だが、これが大ハズレ。段取りが悪くてちっとも笑えない。

 そして中盤、田舎に帰った主人公が、ヘビメタにハマってグレている弟を“ヨハネ・クラウザーII世”の格好で一喝するシークエンスも、冗長な描写と間延びした各キャラクターの動かし方で観ていて眠くなる。さらに終盤、フッ切れた“ヨハネ・クラウザーII世”が信者を引き連れて米国デスメタルの首魁が待つコンサート会場に走って行く場面も、何の工夫もなく漫然とカメラを回しているだけだ。

 ならば演奏シーンだけでも盛り上げて欲しいものだが、これまたどうしようもないほど凡庸。この監督(李闘士男)はロックの何たるかをまったく分かっていないのではないか。たとえば陣内孝則が監督した「ROCKERS」の観る者を瞠目させるようなエキサイティングなコンサート場面と比べたら、本作のそれは児戯に等しい。だいたいゲストに“キッス”のジーン・シモンズを連れてくるところも完全に的はずれだ。“キッス”はデスメタルではない。見かけはハデだが、やっている音楽は昔ながらのシンプルで明るいアメリカン・ハードロックである。もっと“本職”の面子を引っ張ってくるべきだ。

 主演の松山ケンイチは頑張ってはいるけど演出が三流なので何となく“上滑り”している。ヒロイン役の加藤ローサはハジケ方が足りない(可愛いけどね ^^;)。わずかに目立っていたのは極悪な事務所の社長を楽しそうに演じていた松雪泰子ぐらいだ。全体的に低調テレビドラマと同程度の出来で、改めて邦画における喜劇の難しさを痛感することになってしまった。
コメント
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