(原題:神探)アジアフォーカス福岡国際映画祭2008出品作品。これは面白い。何より“自らを痛めつけることによって事件を解決する刑事”という主人公の設定が絶妙だ。しかも彼は“他人の心の闇を擬人化して見る能力”も身につけている。反面、重い精神疾患を抱えていて妻には逃げられ、警察も辞めるハメになる。その辞めるきっかけになったのが、定年を迎えた上司の歓送会で、いきなり自分の耳を切り取って“記念品”として渡すという常軌を逸した所業なのだから、まさに天才とキ○ガイのと分水嶺に立つ危険度100%の問題人物である。
そんな彼が香港警察からの依頼で迷宮入りになりかけた警官失踪事件を解決するため捜査現場に復帰するのだが、当然ながら一筋縄ではいかない展開を見せる。重要参考人である失跡警官の同僚を追う主人公は、相手が7人もの“心の闇”を引き連れて行動していることを知って愕然とする。7人のうち親分格は若い女の姿をしていて、一番下劣な行動に出るのが太った男の格好をしているというのが笑えるが、彼らが現れる“主人公から見た情景”と現実の場面とのシンクロが絶妙で、観ている側は夢かうつつか分からないスリリングな映像体験ができる。
さらに主人公は別れた妻の“残留思念”と生活しており、そこに実際の前妻が現れてバトルを挑んだりするのだから、興趣は一段と高まってゆく。被害者の行方を追うため自分で生き埋めになったり、暴飲暴食を演じたりと、マゾ的な荒行がエスカレートするのも見どころだ。
監督ジョニー・トーとワイ・カーファイだが、ジョニー・トーの鋭角的な映像タッチは今回も健在。彩度を落としたストイックな画調もさることながら、クライマックスの“鏡を利用した銃撃シーン”は見事というしかない。シニカルな結末も含めて無駄な作劇というものが感じられず、これは上質の“大人の仕事”と言うべきだろう。
主演のラウ・チンワンはまさに怪演。いかにも壊れそうで、壊れたついでに周りの者を全員道連れにしてしまうような危ういキャラクターを見事に表現している。日本の俳優にたとえれば“絶好調の時の田口トモロヲ”といったところか。彼のパフォーマンスに接するだけでもこのシャシンの存在価値はある。一般公開の際は見逃してはならないだろう。