元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ダークナイト」

2008-09-01 06:39:03 | 映画の感想(た行)

 (原題:The Dark Knight )絶賛の嵐だが、あえて苦言を呈しておく。よく見かける“アメコミを元にした映画にしてはレベルが凄く高い”とか“ヒーロー物にしては見応えがある”という評は、逆に言えば“完成度の高いヒーロー物”という範疇でしか作品の内容を評価していないことを意味する。ぶっちゃけた話、これは“高密度だが、しょせんヒーロー物”という言い方も出来るのだ。

 持ち前の身体能力と豊富な財力でゴッサム・シティにはびこる悪を駆逐するバットマンだが、厳密に言えば彼は公的な機関にコミットしているわけでは決してなく、やっていることは個人的な暴力の行使でしかない。まあ、中には正当防衛に含まれるような立ち回りもあるのだが、多くは法律に抵触するような所業である。

 百歩譲って警察や検察がバットマンに悪を懲らしめるために少々手荒なことをして良いとの“お墨付き”を与えているにしても、実際問題として身元不明のマスク男に全幅の信頼を置くわけにはいかないだろう。要するに、ボランティアで悪漢相手に立ち向かっている謎の一民間人という設定そのものが非現実的であり、ここが“しょせんアメコミ”なのである。

 こういう“有り得ない作品世界”の中に、今日的な善悪の在り方とか人間の心の闇とかいった、リアリスティックなテーマを持ち込んで、いったい何になるのか・・・・と思ってしまうのだ。スーパーマンとかスパイダーマンとかいった超能力をもって悪と対峙するヒーローが活躍する映画ならば最初から絵空事なので、その中にリアリズムに振った要素を放り込むと(目新しさという点で)効果的だろう。しかし、バットマンのような生身の人間が主人公で現実に近い設定のヒーロー物はその出発点からして問題点が満載だ。

 今回の映画はそのディレンマに(長い上映時間を伴って)果敢に挑戦していながら、結局作品世界の矛盾に絡め取られていると思う。もちろん、バットマンというキャラクターが矛盾に満ちた存在であることを承知で、あえてそれを“空気”のように受け入れているアメリカの観客相手では成り立つアプローチだろう。しかし、アメコミのヒーローに何の思い入れもない当方としては、この深刻ぶった展開には居心地の悪さを感じざるを得ない。

 こういう主題を扱うならば、何もヒーロー物でやらなくても通常のドラマでいくらでも描けるはずだし、監督のクリストファー・ノーランはそれが出来る人材だと思う。

 これが遺作となってしまったヒース・レジャー扮するジョーカーは確かに凄い。しかし、マンガチックな造型のジャック・ニコルソン演じるジョーカーの方が個人的には納得できる。ブルース・ウェイン役のクリスチャン・ベールはいつもの通り。バットマンのブレーンであるマイケル・ケインとモーガン・フリーマンはさすがの存在感だけどまあ予想の範囲内。ハービー・デントに扮するアーロン・エッカートは敢闘賞ものだとは思うが、レイチェルを演じるマギー・ギレンホールはミス・キャスト。もっと若くて身体のキレの良い女優を持ってくるべきだったろう。それでもアクション・シーンは素晴らしく、SFXの出来も上々だ。そういう方面だけを目当てにしている観客ならば満足できるかもしれない。
コメント
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