元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シティ・オブ・メン」

2008-09-03 06:36:21 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Cidade dos Homens )ブラジルの貧民街での子供たちの殺し合いを描いた問題作「シティ・オブ・ゴッド」の姉妹編だが、インパクトの強さでは“本家”には及ばないものの、かなり良くまとまった映画だと思う。

 まず目を奪うのは、リオデジャネイロの市街地の裏山に広がる貧民街である。見渡す限りのあばら屋の集落。しかしどこか秩序だった配置のパターンが感じられ、ただのスラムではない異様なエネルギーがみなぎっている。この雰囲気を活かすため、詳しいセリフ説明もないままほとんど素人のキャストを縦横無尽に動かしている。

 対してカメラワークには細心の注意が払われており、引きのショットとクローズアップとがシンクロするタイミングが絶妙で、即物的な切れ味が画面全体に横溢している。脚本も、全体的には単純のようでいて細部の語り口には凝った仕掛けが施されており、時制を前後させて登場人物達のプロフィールを浮かび上がらせている点などは見事だと言えよう。

 そして「シティ・オブ・ゴッド」と決定的に違う点は、作者がこの状況においても希望を失っていないということだ。映画の中心になるのは貧民窟で生まれ育った18歳の二人の少年で、共に父親がおらずロクな教育も受けていないが、マジメで性格は明るい。親友同士の彼らは一方の父親が実は生きていることを聞きつけ、何とか対面に漕ぎつける。それが偶然にも過去の悲劇を浮かび上がらせることになり、二人は死ぬほど悩むのだが、作者は決して見放したりはしないのだ。ラストの扱いには明らかに将来を見据えたポジティヴな視線が感じられて快い。

 他方、丘の上での覇権を狙うギャングどもの抗争については突き放した描き方しかしていない。まるで子供同士の陣取り合戦みたいな意地の張り合いでしかないのだが、使われる武器は鉛の弾が入った本物だ。くだらないメンツのために若い命を散らす彼らに対しては、撮り方もドライで何の感慨もないように思える。作者の中では善悪の棲み分けがハッキリしており、悪党にも言い分があるとかいったエクスキューズは一切ない。

 主人公二人との対比により、それがまたこの国が抱える深刻な格差問題と強調させるという仕掛けだ。ある意味図式的と言えるが、前述のような確固とした技巧と作り手の真摯な気持ちさえあれば、十分観る者に迫ってくる。「シティ・オブ・ゴッド」の監督フェルナンド・メイレレスは今回はプロデューサーで、演出はテレビシリーズのディレクターであるパウロ・モレーリが担当しているが、職人的な手堅さを見せていて十分納得だ。主人公達に扮するドグラス・シルヴァとダルラン・クーニャも好感度が高い。

 それにしても、ブラジルはサッカーのワールドカップ開催予定国であり、リオデジャネイロは夏期オリンピックにも立候補しているが、こういう状態で果たして無事に開けるのか心配になってきた。
コメント
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