元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「オーム・シャンティ・オーム」

2008-09-26 06:41:25 | 映画の感想(あ行)

 (英題:Om Shanti Om)アジアフォーカス福岡国際映画祭2008出品作品。これは素晴らしい。本映画祭で一番の収穫だと思う。お馴染みインド製娯楽映画で3時間弱の長尺だが、一時たりとも退屈するヒマがない。本国での大ヒットも十分うなずける出来だ。

 映画は二部構成だ。前半は70年代のボリウッド(ムンバイ市にある映画製作のメッカ)。駆け出しの若手俳優オームが人気女優シャンティに恋をする。彼の猛アタックで立場を超えて仲良くなり始めた二人だが、悪辣なプロデューサーの奸計にハマり彼らは非業の最期を遂げる。第二部はそれから30年経った現代のボリウッド。やり手の映画製作者の息子として“転生”したオームは自らの“前世”を知らないまま育ち、今では大スターになっている。だが、ふとしたことから“前世”の記憶が蘇り、罪を問われないまま今ではボリウッドの顔役になっているくだんの悪徳プロデューサーに対して復讐を誓う。

 随分と乱暴なプロットで、主人公の計画に参加するのがシャンティそっくりの新人女優だというのだから、御都合主義もいいところだ(笑)。しかし、この荒っぽい筋書きがボリウッドのフィルターを通ると血湧き肉躍る娯楽巨編へと変貌するのだから映画というものは面白い。

 興味深いのが前半部分だ。たとえ生活はシビアでも、皆明日への希望を失っていない楽天的な雰囲気が横溢するボリウッドの煌びやかさは目も眩まんばかりである。古き良きスター・システムが機能しており、映画が夢の商品であることを誰もが疑わなかった時代だ。主人公が親友と将来の希望を語り合う場面、大部屋女優だった母親とのやりとり、ヒロインを振り向かせるためにあの手この手を繰り出すオームの奮闘ぶり、そのすべてが微笑ましい。

 第二部は因縁話に持って行った無理が感じられるが、それでもインド映画界のバックステージものとして十分な存在価値を獲得している。終盤の、まるで「オペラ座の怪人」みたいな大仰な展開も楽しい(笑)。そして全編を貫く青年の成長物語としてのコンセプトは確固としたもので、ドラマツルギーにブレがない。

 これが第二作になるという女流ファラー・カーンの演出はパワフルそのもの。振り付け師出身というだけあって、ミュージカル場面の盛り上がりは凄まじい。ナクール・カンテとサンディープ・チョータによる楽曲も極上であり、観客の目を奪うカラフルが色彩設計も相まって、スクリーン上に祭が出現したかのような圧倒的なヴォルテージを獲得している。

 主演はシャー・ルク・カーンで、改めて思うのだが彼は“顔はイモいのに、全体的には垢抜けている”という得なキャラクターの持ち主だ。お笑い場面もキッチリこなし、歌と踊りのシーンではスターのオーラが爆発。本当に絵になる男である。そしてシャンティ(及び、そのそっくりさん)に扮するディーピカー・パドゥコーネには参った。女優のレベルが高いインド映画界でも一際目立つ超絶的な可憐さだ。新人ということだが、今後の活躍が期待される逸材である。とにかく、この映画は一度観たらウキウキした余韻が最低3日は続く一大エンタテインメントだ。一般公開を切に希望するものである。
コメント
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