元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ポケットの花」

2008-09-21 06:35:34 | 映画の感想(は行)

 (英題:Flower in the Pocket)アジアフォーカス福岡国際映画祭2008出品作品。どうにも冴えない映画だ。舞台はクアラルンプールの下町。小学生の兄弟の日々を追ったドキュメンタリー風の映画だが、ストーリーに起伏がない。もちろん、アクセントになるエピソードを積み重ねればいいというものでもないが、これだけ工夫もなく映像が流れてゆくだけのシャシンは観ていて辛い。

 二人は古い集合住宅に住み、母親はいない。どうしていないのか、暗示させるようなものはない。父親はマネキン人形を作っている小さな工房を経営しているが、ドラマ的になぜマネキンなのかは分からないし、それが物語と絡んでくる様子はない。親子で会話する場面は終盤近くにならないと出てこないし、それどころか父親が帰ってくる時分は子供達は寝てしまっており、朝はまだ寝ている父親を起こすわけでもなく、さっさと自分たちだけで身支度をして登校してしまう。つまりはほとんど家族の体を成していないのだが、映画はそれについて何か言及しようという様子は見受けられない。

 兄弟二人と仲良くなろうとする近所の女の子とその家族の描写も、思わせぶりながら何も話が発展するところがない。二人が拾ってくる子犬が何か大きな事件を引き起こすのかと思っていたが、これも空振り。全体的に、ドラマの要点がまったく見えてこないのだ。

 わずかに興味を引いたのが、彼らは中国系でマレー語がうまく話せず周囲とのコミュニケーションが十分に取れないこと。おそらくは中国から移民して間もないのだと思う。学校ではクラスメートに“通訳”してもらわないと教師と意思の疎通も図れない。そのことをもって多民族国家マレーシアの実相を浮き彫りにしようとしたのかもしれないが、上手く活かせるような展開に持っていくことは出来なかったようだ。

 リュウ・センダックの演出には特筆できるようなものはない。釜山映画祭やロッテルダム映画祭で新人監督賞や観客賞を受賞しているとのことだが、それほどの才気はまったく感じられなかった。正直言って、あまり観る価値はないと思う。それにしても「ポケットの花」というモチーフが劇中にまったく出てこないが、これもよく分からない。
コメント
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