元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パボ」

2008-09-25 06:41:36 | 映画の感想(は行)
 (英題:Babo)アジアフォーカス福岡国際映画祭2008出品作品。期待していなかったが、かなり楽しめた。韓国の地方都市に住む知的障害者の男を題材にした本作、イ・チャンドン監督の「オアシス」などに見られるようなハンディを負った者に対する(無意識的な)差別が感じられないのがポイント高い。

 そもそも原作がカン・プルによるネット漫画なので、障害者の生き様に徹底してリアリズムで迫ったような重さは回避され、多分にファンタジー方面に振られた作劇になっているのは仕方がない。それを代表するのが彼の幼なじみである若い女。彼女は欧州にピアノ留学していたが、スランプに陥り逃げるようにして故郷に戻ってきたのだが、いくら小さい頃からの知り合いとはいえ、小汚い格好でオドオドした態度の主人公と何のわだかまりもなく付き合うというのはいかにも絵空事だ。特に彼が履いている靴にまつわるエピソードは、かなりワザとらしい。



 しかし、甘いだけのモチーフに終始しないところがこの映画の取り柄だ。主人公の妹は高校生だが、障害を持つ兄をいつも恥ずかしいと思っている。早く両親を亡くし、たった一人の肉親の兄と一緒に暮らすしかない状況が、その苛立ちを一層募らせる。主人公の子供時代からの友人である男は街中で怪しげな飲み屋を経営している。やさぐれた日々を送る彼は障害者である主人公と付き合うことで、自らのコンプレックスの捌け口に利用している。

 主人公の一途な行動が彼らの心を開かせるという構図でドラマは進むが、そのあたりはいたずらに露悪的な捉え方をせず、適度にセンチメンタルな味付けを施し、本当に無理のない描き方が成されている。それだからこそ終盤近くの愁嘆場も作為性があまり感じられず、気持ち良く観られるのだ。特に主人公のヤクザな友人が店で働く若い女と想いを通わせるシークエンスは、しみじみとした情感が漂い好感度が高い。



 若手のキム・ジョングォンの演出は実に丁寧で、韓流作品にありがちな雑な部分はない。主演のチャ・テヒョンは熱演で、持ち味である人の良さを前面に出し、メンタルな障害を背負った人物像を嫌味なく表現している。ヒロイン役のハ・ジウォンも、いつもながらの勝ち気なテイストをチャームポイントに昇華させた妙演。硬質な美貌も健在だ。同じネット経由のネタとしては我が国の「恋空」なんかより数段上質で、観る価値は十分にある佳編だと言える。ノスタルジックな佇まいの全州の街の風景も素晴らしい。
コメント
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