竜胆の瑠璃一輪を志野の皿に水はりてさす初秋の朝け
逝きてより覆ひしままの碁道具に手ふるれば鳴る那智の黒石
鼻少し欠けたる古雛母に似て円居せし日の語らひ偲ぶ
うすもののわれの胃の腑を見るならん踊り食ひせし白魚の眼(まみ)
朝まだき厨の蜆つぶやきてふるさと宍道湖の砂をはきをり
呟きがみそひと文字になりたれば胸にあかりのほのと点りつ
雪暗(く)れにビーフシチューの灰汁をとり一人の夕の時間を煮込む
宍道湖の大き落日そびらにししじみとる舟眼(まなこ)に浮かぶ
卒寿すぎまだ生きんかなこの秋のニットの案内に心ゆれつつ
補聴器と眼鏡に加へマスクまで耳は密なりコロナ禍の日々
(堀田茂子 宍道湖 六花書林)
********************************
堀田茂子さんの第一歌集。略歴を見ると昭和4年生まれとあるから92歳。
「日本歌人」の苑翠子氏、「笛」の藤井常世氏に師事したのち、いまは奥村晃作氏の教室の生徒さんである。歌は端正で破綻がない。ご本人が真っ当な人生を誠実に歩んで来られたのが想像できる。わたしには真似のできないご苦労を重ねて来られたのだろう。一冊の歌集の重みを感じる。
逝きてより覆ひしままの碁道具に手ふるれば鳴る那智の黒石
鼻少し欠けたる古雛母に似て円居せし日の語らひ偲ぶ
うすもののわれの胃の腑を見るならん踊り食ひせし白魚の眼(まみ)
朝まだき厨の蜆つぶやきてふるさと宍道湖の砂をはきをり
呟きがみそひと文字になりたれば胸にあかりのほのと点りつ
雪暗(く)れにビーフシチューの灰汁をとり一人の夕の時間を煮込む
宍道湖の大き落日そびらにししじみとる舟眼(まなこ)に浮かぶ
卒寿すぎまだ生きんかなこの秋のニットの案内に心ゆれつつ
補聴器と眼鏡に加へマスクまで耳は密なりコロナ禍の日々
(堀田茂子 宍道湖 六花書林)
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堀田茂子さんの第一歌集。略歴を見ると昭和4年生まれとあるから92歳。
「日本歌人」の苑翠子氏、「笛」の藤井常世氏に師事したのち、いまは奥村晃作氏の教室の生徒さんである。歌は端正で破綻がない。ご本人が真っ当な人生を誠実に歩んで来られたのが想像できる。わたしには真似のできないご苦労を重ねて来られたのだろう。一冊の歌集の重みを感じる。