気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

翡翠の連  蒔田さくら子 

2021-08-18 00:08:11 | つれづれ
ひとつづつ花押しひらく力溜め莟むさくらに流るる時間

さし交はすさくらの枝に透きて見ゆ高層マンション生活(たつき)の明かり

ビルマの翡翠の連(れん)くびすぢに冷たしとおもふはいつも秋のこの頃

崩(く)えかけし築地に咲ける花すみれ春うたかたの感傷のいろ

惜しみなく花ごろも脱ぎ褻(け)の日々に移らむとするさくら静けし

ひとすぢの身の簡明もて滑(すべ)らかに池泳ぎゆくはつなつの蛇

同行者あるはずなきにあるやうな鎌倉街道ここ化粧坂(けはひざか)

湧きたれば落つるほかなに瀧のみづ怒れるごとく轟きわたる

古備前のこのよき壺は花を容るるためにはあらず在るために在る

日表にほうと微笑(みせう)の石地蔵 辻をまがりてかかる遇ひあり

ほんたうはこんなに年をとつたのか 見えざる己を見るクラス会

(蒔田さくら子 翡翠の連 角川書店)

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短歌人会の大先輩、蒔田さくら子氏の歌集を読む。
五十五年間、編集委員をなさっていたのを、昨年末で退任された。長い間結社のために働いてこられて、これからいよいよ自分自身のために歌を詠みたいという意気込みに満ちた歌集。短歌的表現とはこういうものだと教えられる気がする。引用したい歌ばかりであるが、春にふさわしい歌などを引用してみた。同じところにとどまらず、常に先に進もうとしておられる姿はさわやかだ。
最後のクラス会の歌、発見のうたとして面白い。



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