気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

galley  澤村斉美 

2014-01-08 20:17:31 | つれづれ
「残業の人の背中はさみしい」と向かひのビルの人も思ふらむ

サワムラは水の流れる村にして夜勤ののちをふかく冷えこむ

うどん食べてゐる間に死者の数は増えゲラにあたらしき数字が入る

ハンガーの肩の下がつたワイシャツの夫の形へ「ただいま」と言ふ

「貧困」といふ字の並ぶ新書棚どの貧困も買はずに過ぎる

ガレー船とゲラの語源はgalleyとぞ 波の上なる労働思ふ

ベランダは秋へ漕ぎ出し銀色のせんたくばさみ風に鳴りをり

わたくしの白とあなたの水色をかさねて仕舞ふ給料明細

八時間赤ボールペン使ひたる手を包む泡がももいろになる

死者の数を知りて死体を知らぬ日々ガラスの内で校正つづく

(澤村斉美 galley 青磁社)

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塔短歌会の澤村斉美(まさみ)の第二歌集『galley』を読む。
作者は新聞社の校正記者。集題は、編集途上の「ゲラ刷り」の語源と関わりのあるガレー船から取っている。ガレー船は人力で櫂を漕いで進む軍船のこと。時代が変わっても、それぞれ人の労働に関わる。
歌集には、残業、夜勤、上司という言葉がよく出て来て、労働の歌が多い。地に足のついた生活から生まれる歌には信頼が持てる。
また、三首目のような夫への静かな愛を詠った相聞も魅力的だ。
七首目のベランダの歌は、新しい季節の始まりを詠ってみずみずしい。せんたくばさみやベランダといった日常の何気ないアイテムが、言葉のちからで銀色に輝くようだ。
九首目。わかりやすく労働の厳しさが伝わる。「ももいろ」という言葉がこんなに崇高に見える歌をほかに知らない。

装丁は白を基調にして洒落ている。遊び紙は一見の価値あり。

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