幾千の花を水面に散らし終へ五月の山へ消ゆる大藤
親鶏の名も書かれたる卵三つ謹んで食む春の夕暮れ
南蛮と蔑せし裔(すゑ)のわれら今カステラおいしく頂いてをり
身のうちゆはがれ来しかとゆくりなく眼鏡レンズはぱらりを外る
街の湯に父と入りしは去年なり寡黙なりしよその日も父は
居酒屋を出で来し男女が手を繋ぐふと街の灯の途切るる辺り
換気扇をりをり回り気まぐれに夏の日差しを細切れにする
触れられてふとも鳴りだす風鈴の鳴り止むまへの音のかそけさ
東京のバナナと飯塚のサブレーが新幹線で東北へ行く
ふるさとの葱のぐるぐる肥後弁のふとも懐かし酢味噌に食みき
(田上義洋 ひともじのぐるぐる 六花書林)
************************
短歌人の田上義洋(たのうえよしひろ)の第一歌集をよむ。短歌をはじめて日が浅いとのことだが、なかなかどうしてかなりのセンスの持ち主とわかる。文語旧かなを使いこなして、違和感がない。モノを見る目が鋭く、独自の切り取りをしながら、のどかなユーモアを醸し出している。音感がよい。「南蛮と蔑せし」は「な」音の連なりが楽しい。音が次の音を呼ぶのだろう。これからの活躍が楽しみだ。
親鶏の名も書かれたる卵三つ謹んで食む春の夕暮れ
南蛮と蔑せし裔(すゑ)のわれら今カステラおいしく頂いてをり
身のうちゆはがれ来しかとゆくりなく眼鏡レンズはぱらりを外る
街の湯に父と入りしは去年なり寡黙なりしよその日も父は
居酒屋を出で来し男女が手を繋ぐふと街の灯の途切るる辺り
換気扇をりをり回り気まぐれに夏の日差しを細切れにする
触れられてふとも鳴りだす風鈴の鳴り止むまへの音のかそけさ
東京のバナナと飯塚のサブレーが新幹線で東北へ行く
ふるさとの葱のぐるぐる肥後弁のふとも懐かし酢味噌に食みき
(田上義洋 ひともじのぐるぐる 六花書林)
************************
短歌人の田上義洋(たのうえよしひろ)の第一歌集をよむ。短歌をはじめて日が浅いとのことだが、なかなかどうしてかなりのセンスの持ち主とわかる。文語旧かなを使いこなして、違和感がない。モノを見る目が鋭く、独自の切り取りをしながら、のどかなユーモアを醸し出している。音感がよい。「南蛮と蔑せし」は「な」音の連なりが楽しい。音が次の音を呼ぶのだろう。これからの活躍が楽しみだ。