気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

季節  斎藤典子歌集

2012-05-14 01:38:50 | つれづれ
そのうちの一人は息子紺色のスーツの群れのなかに見失ふ

掛け軸のなかより滝の流れ落ちたちまち脛まで涼は来たれり

母と子の影とどまりてバス停の秋の時間のくきやかにあり

母と子はかつてのわれと息子なれば奪はれやすし秋の時間は

妄想癖すこしあるのをみてとればこのひともまた仲間とおもひぬ

生徒らを「はやくはやく」と追ひたてて羊飼ひかと言はれてをりぬ

ひとつづつわれの居場所を消しゆきて春風駘蕩退きゆかむ

夏山より帰り来たりし息子の背おほきなる雲ころごりてゐる

パソコンのたちあがる音に温かみあると思ふまで秋深みゆく

光沢紙濡るるばかりに出できたりきのふ別れしひとびとの顔

(斎藤典子 季節 砂子屋書房)

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短歌人関西歌会でお世話になっている斎藤典子さんの第四歌集を読む。
あとがきによれば、2011年3月に教職を退かれている。三十数年続けてこられたお仕事を辞められることには寂しさもあり、感慨無量であることは想像できる。
また、息子さんの歌にあたたかい愛情が感じられ、同じように離れて暮らす息子を持つ身として共感するところが多い。

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2 コメント

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Unknown (藤渓)
2012-05-15 09:36:22
「ひとつづつわれの居場所を消しゆきて」

身に沁みます。
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Unknown (かすみ)
2012-05-15 13:28:37
藤渓さん

長い間勤めた職場を辞めるときって、こんな感じなんでしょうね。
斎藤さんにも私にも短歌があってよかったと思います。
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