気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

はるかな日々 栗明純生 六花書林

2022-10-10 22:30:00 | つれづれ
夕さればあかねの影絵、大手町を眼下に眺(み)つつメール読み継ぐ

入りくるメール幾十標題を読みとばしさぐる緊急案件

半円のくぐり戸にかつてのポーズとる妻はほどよく肉づきしなり

壁面をほぼ本棚で埋めつくし終日ぼーっと過ごす贅沢

冠動脈に管通さるる不気味さの二時間あまり慣れることなく

M&A、スワップ、オプション、インデクス、アルゴリズムに追いまくられて

日々外に出でゆく妻よそんなにも俺が居るのがうっとうしいか

シンゾーがウラジミールと呼ばうたびぞっとする笑みプーチンは浮かべ

早朝の目覚めの憂鬱恐る恐るパソコン開き株価を覗く

公園の露店カフェーの木漏れ日をまだらに浴びてマスクを外す

(栗明純生 はるかな日々 六花書林)

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短歌人編集委員の栗明純生の第五歌集。証券業界で会社を転じつつ四十三年を働いてきて、退職ののちに纏めた一冊だ。庶民にはわからないような神経をすり減らす激務の日々だったのだろう。心臓の手術の歌もありながら、妻との暮らしがあり、スポーツや旅を楽しんでいる。短歌に関わる人には貧しさ、生活の不遇を嘆く人が多い中で珍しい存在だ。

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