赤屋根の駅舎を出でて選ぶ道、左の道は春に入りゆく
亡き人の寝台借りて睡りたり青光りする蛹(さなぎ)のように
貝寄せの風にととのう砂浜の海の額をつつしみ踏めり
欅あかり西の枝からふくらんで子の出で行きし窓を包みぬ
古い付箋の位置をずらしてまた戻す記憶のうらの蛇を見しごと
ちぎりパン撒きながらゆく朝の水とおい島への道順として
きょうは薔薇あすは糸杉と歌う声、日仏学館百年のちも
スイッチを切ればしっとりうなずいて空間ひとつ闇にしりぞく
句読点は呼吸する星たましいのソクラテスからいただいたもの
やわらかい雨の透き間にひそやかに黒揚羽くる繻子の靴はいて
(山下泉 海の額と夜の頬 砂子屋書房)
********************************
装丁は、フランス装で、ハトロン紙のカバーがかかり瀟洒な感じがする。付箋がいっぱいついた。こういう歌集を読んでいると、じんわりと静かな悦びを感じる。写真は日仏学館。
亡き人の寝台借りて睡りたり青光りする蛹(さなぎ)のように
貝寄せの風にととのう砂浜の海の額をつつしみ踏めり
欅あかり西の枝からふくらんで子の出で行きし窓を包みぬ
古い付箋の位置をずらしてまた戻す記憶のうらの蛇を見しごと
ちぎりパン撒きながらゆく朝の水とおい島への道順として
きょうは薔薇あすは糸杉と歌う声、日仏学館百年のちも
スイッチを切ればしっとりうなずいて空間ひとつ闇にしりぞく
句読点は呼吸する星たましいのソクラテスからいただいたもの
やわらかい雨の透き間にひそやかに黒揚羽くる繻子の靴はいて
(山下泉 海の額と夜の頬 砂子屋書房)
********************************
装丁は、フランス装で、ハトロン紙のカバーがかかり瀟洒な感じがする。付箋がいっぱいついた。こういう歌集を読んでいると、じんわりと静かな悦びを感じる。写真は日仏学館。
山下泉さんの歌は、静かで透明でうまいですよね。読んでいて、すごいと思うけれど、自分は自分と思わないと、作品はできません。どんな人も悩みながら作っているはず。言わないだけでしょう。
ひるがえって、すぐれるあまり自分が砕かれることも。