気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

逆光の鳥  伊東文  青磁社

2018-09-09 18:42:52 | つれづれ
左胸の乳房なければ右側へ傾く身体 きくきく歩く

墓石に刻まれてある命日は被爆の日より秋が多かりき

E線を押さへるきみの左手の指輪はづされ匣(はこ)にをさまる

黒板のすみずみまでも拭いてゆく児らの帰りし教室はしづか

百合鷗と漢字に書けば甦るくれなゐの脚 蘂のごとしも

潦(にはたづみ)くつをぬらして立ちどまる嫁菜のひくく咲く道の辺に

句碑の字のくぼみ翳らせ石肌のあふとつにそふ冬の日射しは

渋滞に動かぬバスの窓拭ふゆびの幅だけ夕闇が来る

ああほんの束の間わか葉も幼子もまだやはらかく照り翳りせり

被爆せし母の身体が火葬炉の烈しき炎が灼きつくしたり

(伊東文 逆光の鳥 青磁社)


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