左胸の乳房なければ右側へ傾く身体 きくきく歩く
墓石に刻まれてある命日は被爆の日より秋が多かりき
E線を押さへるきみの左手の指輪はづされ匣(はこ)にをさまる
黒板のすみずみまでも拭いてゆく児らの帰りし教室はしづか
百合鷗と漢字に書けば甦るくれなゐの脚 蘂のごとしも
潦(にはたづみ)くつをぬらして立ちどまる嫁菜のひくく咲く道の辺に
句碑の字のくぼみ翳らせ石肌のあふとつにそふ冬の日射しは
渋滞に動かぬバスの窓拭ふゆびの幅だけ夕闇が来る
ああほんの束の間わか葉も幼子もまだやはらかく照り翳りせり
被爆せし母の身体が火葬炉の烈しき炎が灼きつくしたり
(伊東文 逆光の鳥 青磁社)
墓石に刻まれてある命日は被爆の日より秋が多かりき
E線を押さへるきみの左手の指輪はづされ匣(はこ)にをさまる
黒板のすみずみまでも拭いてゆく児らの帰りし教室はしづか
百合鷗と漢字に書けば甦るくれなゐの脚 蘂のごとしも
潦(にはたづみ)くつをぬらして立ちどまる嫁菜のひくく咲く道の辺に
句碑の字のくぼみ翳らせ石肌のあふとつにそふ冬の日射しは
渋滞に動かぬバスの窓拭ふゆびの幅だけ夕闇が来る
ああほんの束の間わか葉も幼子もまだやはらかく照り翳りせり
被爆せし母の身体が火葬炉の烈しき炎が灼きつくしたり
(伊東文 逆光の鳥 青磁社)