気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

北二十二条西七丁目  田村元  つづき  

2012-09-16 14:45:23 | つれづれ
企画書のてにをはに手を入れられて朧月夜はうたびとになる

涸谷(ワジ)を行く一小隊に若鮎のやうな詩人が ゐないと言へるか

俺は詩人だバカヤローと怒鳴つて社を出でて行くことを夢想す

島耕作にも坂の上の雲にも馴染めざる月給取りに一つ茶柱

デスクトップの赤き砂漠に向き合ひてひねもす夏の盛りを知らず

投げられし書類拾はむと屈むときある油絵のひとつが浮かぶ

サラリーマン塚本邦雄も同僚と食べただらうか日替ランチ

パソコンの画面周りに増えてゆく獅子のたてがみのやうに付箋が

疲れ果てわが寝室に入り行けばシェーのポーズで熟睡の人

旧姓を木の芽の中に置いて来てきみは小さくうなづいてゐた

(田村元  北二十二条西七丁目  本阿弥書店)

******************************

作者は、サラリーマンであり、労働の歌が多くある。歌人のほとんどは、何らかの職業人で、教師が多いが、それ以外の職業もある。くわしくはわからないもののホワイトカラーであろう。四首目を見ると、余り上昇志向ではなさそうだ。ポケットにメモ帳を入れて、仕事中でも歌を思いつくと、こそこそっと書いたりしているんだろうな。メモ帳を出す暇もなかったら、お箸の入ってたケースだったり、携帯電話だったり、レシートの裏だったりするんだろうなと、ほほえましくなる。教員歌人はよく学校の歌を作るが、私自身がむかし事務員だったことや、夫も亡き父もサラリーマンであることから、こちらに親近感を持ってしまう。最後の二首は、奥様のことだろう。木の芽という植物をもってきたのが、質素で好感を持つ。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (tamaya)
2012-09-17 08:18:31
この歌集、僕も過日mixiの日記で紹介しましたが、一番びっくりしたのは、田村さんがご近所の住人とわかったことでした。終章のタイトル、「汐入」駅はウチから徒歩3分、田村さんのお宅は駅から反対方向ですが、やはり徒歩3分ぐらいでしょう。お会いしたことはないのですが、ドブ板通りあたりですれ違っているかも知れません。
返信する
Unknown (かすみ)
2012-09-17 10:49:00
以前、某書店で働いていたとき、田村○さんというお客様がよく注文をしてくださいました。本を取りに来られたとき、手際が悪くてずいぶん待ってもらったことがあり、社員さんに「あの人はすごい人なんだ」と聞いたことがあります。
その後、田村元さんのお名前を見るたびにあのお客様ではなかったかと、何度も思いました。
しかし、田村元さんは京都にお住まいだったことはないようです。じゃあ、あの田村さんはだれだったのか・・・
返信する
ありがとうございました (田村元)
2012-09-22 18:53:22
近藤かすみ様

拙歌集を取り上げてくださいまして、誠にありがとうございました。しかも、二回に渡ってのご批評、たいへんありがたく拝読いたしました。
私のブログの下記のページにリンクを貼らせていただいてよろしいでしょうか?
http://n22w7.blog.so-net.ne.jp/2012-07-22

私は京都の書店で本を注文したことはなかったと思いますし、全然「すごい人」ではありませんので、田村○さんは別の方だと思います(笑)。でも、なんだかとてもありがたいエピソードです。

tamaya様。私も週末にはよく、ドブ板通りを通っています。あの辺りは、タイ料理やカレーのお店が多く、よくランチを食べに行ったりしています。
返信する
Unknown (かすみ)
2012-09-22 19:13:02
田村元さん

コメントありがとうございます。
とても感じのよい歌集でした。ほかの方の歌集評を見ると、また違った歌をとりあげられています。それだけ、良い歌が多く、幅の広い歌集だと思いました。
リンクもOKです。私も怠けずにブログを維持しなくては・・・(笑)
これからもよろしくお願いいたします。
返信する