気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

おかえり、いってらっしゃい 前田康子 現代短歌社

2022-09-04 12:02:52 | つれづれ
ひんやりと足踏みミシンに秋が来て踏めば遠くに行けるだろうか

叡電のひと駅ひと駅小さくて木の椅子に待つ学生たちが

寂しいときぼそぼそ食べている箱にビスコの坊やの古びし笑顔

我は娘(こ)を 娘は夫を叱りいて夫は老いたうさぎと話す

基地が見え砂浜が見え基地が見えだんだんそれに慣れゆくまなこ

草の歌私が詠まねば誰が詠む えのころぽんぽん電柱を打つ

真四角にアイロンあてしハンカチを護符ならねども今朝も手渡す

体温を他人に知られ店に入る影売る男の話のように

おかえりといってらっしゃい言えぬ場所に子ら二人とも行ってしまえり

シンプルに母が願いてつけし名もこの頃効力うすれてきたり

(前田康子 おかえり、いってらっしゃい 現代短歌社)

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前田康子の第六歌集。植物好きの前田さんらしい野原の装丁(花山周子)が楽しい。京都市の同じ区に住んでいて、ときどきバスで出会ったりする。自然体のように見える歌がならぶ。本当は「そのまんま」ではないだろうけれど、そのまんまかと思わせる技を感じる。生活感があるのに、ちょっと浮遊している。また家事のできる人なのだとも思った。

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