気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人2月号 同人のうた その1

2010-02-03 00:30:50 | 短歌人同人のうた
溶鉱炉順調な時が暇な時トランスポーターに夕陽見に行く
(森谷彰)

岸上の歌碑は木陰に隠れゐて生き延びることの苦を言祝(ことほ)げり
(西橋美保)

反復が上達のこつ みずからに言い聞かせては詰めチェスを解く
(高山雪恵)

冬の夜はほのほの色に頬照らし暖をとりしよかつて家族は
(小西芙美枝)

取りすがるときさへ指を揃へゐて又平はしろき足裏を見す
(洞口千恵)

諦めといふものはある薄暮れの空を過りて鴉群れゆく
(矢野千恵子)

雨の香は黄葉(きは)にうつろひ早逝の姉の墓前は残菊ばかり
(高崎愼佐子)

あと何年生きておるかは知らねども今日見る菊は今日のみの菊
(上原元)

自販機の取出口に大量のかぼちゃの煮つけ 夢は記憶さ
(猪幸絵)

霜月の鳥たちのために残された照柿ひとつ視界の隅に
(蜂須賀裕子)

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先月は同人1だけしか引用とコメントが出来なかったので、今月は同人2の歌を取り上げてみます。

一首目。製鉄所で働く人の労働の歌。工場で働く歌が新鮮に感じられた。夕陽見に行くという転換がいい。
二首目。作者は岸上大作の母校である高校で教師をしている人。一連に岸上への愛が溢れている。
三首目。二句切れのすっきりした歌。「反復が上達のこつ」私も肝に銘じたい。
四首目。懐かしい家族の風景。いつの間に家族はこんなにバラバラになったのだろう。わが家だけか、それとも全体がそうなのか、考えさせられる。「ほ」音の繰り返しが心地よい。
五首目。「傾城反魂香」という題がついている。人形浄瑠璃の歌だろう。丁寧に描写されている。
六首目。二句までに作者は言いたいことを言って、あと風景に目をやっている。下句があることで、しみじみした感じが出た。
七首目。お姉さまの挽歌。七七日の歌もある。係累を亡くした直後より、しばらく経って、驚きが悲しみに変わり、深まる様子が想像できる。残菊という言葉に惹かれた。
八首目。一連が菊に纏わる歌。生きているその日その日が一期一会であることを、思わせられた。
九首目。自販機とかぼちゃの煮つけの取り合わせの面白さ、夢だからこそ。
十首目。短歌を作る時、視界の隅を見るようにと、よく聞くが、まさにこの作者はそれを実践している。照柿が見えてくる。