気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

地上 佐々木靖子 

2010-02-09 17:12:26 | つれづれ
かにかくに逢はざりしかな緑垂るる草の鉢いだき帰り来りぬ 

あやめむとしてその頸に手触りしこと思ひでてひそかにこころはなやぐ

起き出でて蹠(あうら)冷たき床のうへ聊かの菓子のこぼれを拾ふ

あくがるる心とめどなくゐる時に空よぎりゆきし一つ鳥かげ

蒼ざめて昼点りゐる非常口そこ過ぎゆきて誰に逢はむか

地を出でて地に入る電車たまゆらにさびし白雲の遊びゐる空

帰らずともよしと言ひ人を発たせたりはるしをん長けてうち靡く日々

風船の一つ赤きが浮きてゐる堀の面(も)を疾き雨うちたたく

球形の墓に日は照りあはれあはれ死後も投手か若く逝きし叔父

逆しまに髪洗はれてゐる目に見ゆ空のまほらの春の白雲

衰へのすがしき面わ見しのみに相別れけり海紅豆咲く駅に

鬱の熊に抱きすくめられて男ひとりわが前にあり面も得上げず

銀杏落葉ふつかの雨に濡れ朽ちて黄色(くわうしよく)の泥となりたるを踏む

いちしろきやつでの花に虻来てをり耳鳴るばかり昼のしづけさ

(佐々木靖子 地上 不識書院)

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佐々木靖子さんは、今の酒井佑子さん。
五味保義氏の指導の下に学ばれたあと、岡野弘彦氏に師事されていたころの歌集を縁あって、読ませていただいている。抑制の効いた歌に、心の深いところが震える思い。
 
今は短歌人会の同人として活躍されており、酒井佑子名義の歌集『矩形の空』では葛原妙子賞を受賞された。実力のある歌人の作品を、じっくり味わっている。
歌集『矩形の空』受賞のときの新聞記事を参考のために貼り付けます。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200705130051.html