気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

巌のちから 阿木津英

2008-02-16 17:47:54 | つれづれ
三歳を過ぎて片目の野良猫の世の苦浸(し)みたる風情(ふぜい)に歩く

寝台に立てたるあしの膝頭(ひざがしら)ぬくもり惜しむ掌(てのひら)あてて

暗黒にひかり差し入れたましひの抽(ぬ)き上げられむあはれそのとき

さながらに鮮魚売場のごとくにて古本屋(BookOff)なる店内の声

日はすでに没りたるらしも底明かりしてゐる空を雲ちぎれとぶ

カタログを捲(めく)り返してコンピュータ欲し欲し欲しとわが眼(め)張り出づ

(阿木津英 巌のちから 短歌研究社)

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阿木津英の十三年ぶりの第五歌集を読む。
プロの歌人としての矜持を保って詠まれた歌で、なかなか手ごわい。歌人石田比呂志との縁が深く、余情や深みを大切にする歌風。
作者50歳から53歳ころに詠まれていて、途中、妹さんを亡くされている。二首目、三首目はそのときの歌である。
ブックオフやコンピュータの歌は素直に感情が現れていてわかりやすいが、そのような歌は少ない。五首目の「底明かりしてゐる空」はよく観察していると感心した。初期の歌集を読んでから、これを読むともっと理解が深まるだろう。