その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

冨山和彦 『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』(PHP新書)

2015-05-30 18:32:40 | 


 「L(ローカル)大学の英語教育はシェイクスピアではなく観光英語、法学教育は憲法・刑法でなく道路交通法を」など一部の「トップ大学」(グローバル大学)以外は「職業訓練校化」すべきという提言で話題となっている富山和彦氏の著作です。

 G/L大学の話は出てきませんが、「G/L理論」の解説書と言える内容で、冨山氏の主張を理解するのには最適な一冊です。私もG/L大学の提言を上辺だけ読んで「随分乱暴な議論だなあ~」と思っていたところがあったのですが、本書を読んで、日本経済をGとLに分ける考え方には、頷かされるところ、私の肌感覚に合うところも多く、学びが多い一冊でした。。

 本書の主張の骨子は、グローバルな経済圏とローカルな経済圏はその特性(経済のメカニズム、競争のルール、うまく回っていくための要件)が大きく異なり、強い連関もないので、各々の経済特性にあった成長戦略を実行する必要があるというものです。

 グローバル経済圏では、「稼ぐ力」(売上高利益率/株主資本利益率/売上(または利益)成長率10%というトリプルテン)を磨くかが課題であり、そのためのポイントは「国内に世界水準の立地競争力と競争ルールを整えること」となります。政策としては、法人税減税、コーポレートガバナンス強化、VB・VCの担い手の育成、規制緩和などです。

 一方で、非製造業、中小企業が中心でGDPや従業員比で全体の60-70%超を占めるローカル経済圏では、少子高齢化と生産労働人口の減少が進みます。そんな中で、不完全競争の状況に陥っている状況であるため、生産性の低い企業には穏やかに退出させ、生産性の高い企業に集約化していくことで新陳代謝を図っていくことがポイントになります。政策としては、早期再生・再編促進型の倒産法の導入や穏やかな退出促進型の中小企業政策、労働市場における最低賃金上げ、労働監督・安全監督の強化などの規制強化が求められます。

 私自身周りの経済活動を考えると、それほど簡単にGとLに二分できるわけではなく、比率の軽重はありこそすれ、GとLが混じり合って構成されているというのが、本当のところであるとは思います。ただ、こう二分して考えることで、考えが整理されより効果的な政策に結び付き、経済全体が良くなっていくことにつながっていくのでしょう。わかりやすく書いてはありますが、応用範囲が広く、深堀しがいのある提言であるので、本書だけで分かった気になるのではなく、継続して考えていきたいテーマです。図書館の予約待ちのため、発刊より1年近く経っての通読となりました、購入してでももっと早く読んでおくべきだったと思わせてくれた一冊でした。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小池和男 『なぜ日本企業は... | トップ | 山中湖ロードレースに出走 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。